台湾有事「支援は賛成」「派兵は反対」の米世論(2022年7・8月-1)

ペロシ下院議長の台湾訪問には批判的な論調が目立った(C)AFP=時事
波紋を呼んだナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問によって中国の軍事演習が台湾の「ニューノーマル」になりつつある中、米国内では対中強硬論、対中協調論いずれもが展開された。一致しているのは台湾有事をリアルな可能性として認めていること。では、台湾有事に対する世論の本音は?(第2部に続きます)

 

1.台湾有事ははじまるのか

バイデン政権の最優先事項は対中抑止

 2022年の夏は、ウクライナでの戦争が続く一方で、台湾情勢をめぐって中台関係や米中関係において緊張が高まった。いわば分裂と対立が、国際情勢における基調となりつつある。ウクライナでの戦争と台湾海峡における軍事的緊張が連動するなかで、アメリカがこれらの二つの危機にどのように関与するべきかについて、アメリカ国内では多様な議論が見られた。

 ウクライナでの戦争によってアメリカの脅威認識が中国からロシアへとシフトしつつあるなか、エルブリッジ・コルビー元米国防副次官補は『ナショナル・インタレスト』誌に寄せた論考の中で、あくまでもアメリカにとっての最大の安全保障上の脅威が中国であることを強調する[Elbridge Colby, “China, Not Russia, Still Poses the Greatest Challenge to U.S. Security(米国の安全保障に対する最大の挑戦者はロシアではなく中国である)”,The National Interest, July 1, 2022]。

 アジアこそが世界最大の市場であり、米中対立こそが世界での最も重要な対立の構図である。したがって、ヨーロッパでどのようなことが起きようが、アジアにおける中国の覇権構築を防ぐことこそが、アメリカにとっての戦略上の最優先事項だと論じる。

 そのような認識を前提として、コルビーは『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄せた論文の中では、アメリカが台湾を防衛する重要性と、そのために、よりいっそうアメリカ自らも国防費を増額して、防衛態勢を強化する必要を力説している[Elbridge Colby, “America Must Prepare for a War Over Taiwan: Being Ready Is the Best Way to Prevent a Fight With China(米国は台湾をめぐる戦争に準備しなければならない―戦争に備えることこそが米中戦争を防ぐ最善の道だ)”, Foreign Affairs, August 10, 2022] 。

 ジョー・バイデン政権の高官たちは台湾への関与を強めるような発言を繰り返しながら、実際にはそのために必要で十分な措置を行っていない。脅威認識の高まりが、軍事能力の構築と整合していないのだ。そこでコルビーは、バイデン政権が直視すべき4つの必要な措置を提唱する。

 第1は、国防費の増額である。地理的近接性を考慮すれば中国が軍事的に大きく優位であり、このままでは中国の軍事行動を抑止できない。第2には、国防上、必要な部門で十分に軍事費の支出を行うことだ。第3は、中国による台湾への軍事侵攻を防ぐために必要な、米軍のグローバルな戦力配置をよりいっそうアジア重視に見直すことである。それをコルビーは、「アジアへより多く、その他の地域はより少なく(More Asia, less elsewhere)」という言葉で表現する。そして最後の4つ目に必要な措置は、アメリカの同盟国がさらに国防費を増額し、軍事能力を強化することである。

 コルビーから見ると、好むと好まざるとに拘わらず米中間の軍事衝突の瞬間は近づいている。必要なのはそのための準備であり、またそれが起きないための抑止力の強化である。

 それゆえコルビーは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に寄せた共同執筆の論稿のなかで、アメリカでは中国と近い将来に戦うために必要十分な産業基盤がまだ整っていないため、装備を生産し修復するためによりいっそうの財政支出の努力が必要だと論じる[Elbridge Colby, Alexander Gray, “America’s Industrial Base Isn’t Ready for War With China: Washington must invest immediately in a domestic capacity to build and repair military hardware(米産業基盤は中国との戦争に準備できていない―ワシントンは直ちに兵器を生産・修理する能力を獲得するため国内に投資するべきだ)” , The Wall Street Journal, August 18, 2022]。

長期的スパンでの米中競争

 ウクライナでの戦争が勃発してから現在に至るまでの間に、中国は台湾問題をめぐってよりいっそうの攻勢に出ており、自らにとって望ましい国際秩序の創造に着手している。

 戦略国際問題研究所(CSIS)の中国専門家であるボニー・リンジュード・ブランシェットの二人は、『フォーリン・アフェアーズ』誌の共著論文において、ウクライナ戦争勃発当初は不利な立場に追い込まれていた中国が、最近ではむしろグローバルなパワーを確立するために攻勢に出ていると論じる[Bonny Lin, Jude Blanchette, “China on the Offensive: How the Ukraine War Has Changed Beijing’s Strategy(攻めの中国―どのようにウクライナ戦争が北京の戦略を変えたのか)”, Foreign Affairs, August 1, 2022]。

 中国政府は、台湾海峡やウクライナ、そして世界全体において、アメリカこそがその「不安定要因」になっていると批判する。そして、中国こそが、21世紀のグローバルな安全保障を確保するための中心的な大国だと主張する。リンとブランシェットによれば、このような見解は、「グローバル・サウス」と呼ばれる第三世界の諸国では一定の説得力をもっており、そのことをアメリカはより深く認識する必要がある。

 他方、スタンフォード大学のオリアナ・マストロと米中経済安全保障再検討委員会のデレク・シザーズは、「中国はまだ国力のピークには達していない」と題する論稿のなかで、習近平をはじめとする中国の指導層は中国の未来は明るいと考えており、自信に満ち、時間は自らに有利であると考えていると指摘する[Oriana Skylar Mastro, Derek Scissors, “China Hasn’t Reached the Peak of Its Power: Why Beijing Can Afford to Bide Its Time(中国はまだ国力のピークに達していない―北京が時間をかける余裕がある理由)”, Foreign Affairs, August 22, 2022]。

 だとすれば、アメリカは中国との戦略的競争において、より長いスパンでその競争に勝利しなければならないだろう。したがって、短期的な軍事衝突の可能性に対処するのみならず、長期的な時間軸の中での米中競争に勝利する努力も必要となるのだ。米中間の戦略的な競争において、短期的な軍事的優位性の確保を優先すべきか、あるいは長期的な優位性を摸索するべきか。論者によって力点が異なっている。

アメリカ国内では対中協調論も

 アメリカ国内では、コルビーのような対中強硬論に批判的な論調も少なからず見られる。

 たとえば、アメリカの抑制的な対外政策を提唱するクインジー研究所の代表的な中国専門家であるマイケル・スウェインは、コルビー論文を批判し、そのようなアプローチを選択すれば、米中間での際限のない軍拡競争と、台湾以外への紛争の拡大を惹き起こす危険性を懸念する[Michael Swaine, “Why Colby Is Wrong on Taiwan: The Taiwan issue, at root, is not about military balances but political motives(コルビーが台湾問題を誤解している理由―台湾問題の本質は、軍事バランスではなく、政治的動機である)”, The National Interest, August 29, 2022]。

 スウェインによれば、中国の指導者たちは台湾を永久に失うよりは、台湾有事の緒戦で失敗することの方を選ぶ可能性が高く、中国の代表的な安全保障専門家もそのような選択を支持する可能性が高いという。だとすれば、アメリカ政府の強硬な対中政策こそが、軍事衝突勃発の引き金になるであろう、とスウェインは述べる。

台湾有事をめぐる世論の本音

 興味深いのは、コルビーのような対中強硬論者も、スウェインのような対中協調論者も、いずれも台湾問題をめぐって軍事衝突が起こる可能性が高いと認識していることだ。その上で、はたして台湾防衛のためにアメリカが軍事介入を選択するか、あるいは不介入を選択するかという、政策的な選択が問われているのだ。

 たとえば、7月下旬に行われたシカゴ外交問題評議会による調査結果によれば、質問に答えたアメリカ人のうち76%が、中国が台湾に侵攻する可能性が高いとみている。中国による武力統一の可能性について、台湾ではそれほど懸念や緊張が高まっていないが、一方のアメリカでは最近、緊張が高まっている様子が顕著である[Dina Smeltz and Craig Kafura, “Americans Favor Aiding Taiwan with Arms but Not Troops(米国人は台湾への武器支援は支持するが、派兵には反対する)”, The Chicago Council on Global Affairs, August 11, 2022]。

 調査結果では、中国が台湾に侵攻した場合には、76%が外交的な関与や経済制裁にとどまるべきだと考え、65%が追加支援として台湾へ武器を提供することを支持しており、62%が中国による台湾封鎖を阻止するために米海軍艦隊を派遣するべきだと考えている。だが、台湾防衛のために米軍を派兵することを支持したのは40%にとどまっている。

 つまり、ウクライナへの支援同様、アメリカ市民はアメリカの関与を経済制裁や武器供与にとどめることを好んでいることが分かる。政治的には台湾に対して連帯の意志を表明しながらも、アメリカの軍事介入に帰結するような決定には強い抵抗があるのだろう。

2 ペロシ議長の訪台をめぐる緊張と動揺

米国内でも批判を招いた訪台

 このようにして、台湾危機をめぐる論稿がこの夏に数多く見られた理由の一つに、8月2日にナンシー・ペロシ米下院議長が下院議長として25年ぶりに台湾訪問を実行したことが挙げられる。中国政府は事前に、ペロシ議長の訪台を「決して座視しない」と、激しい言葉で繰り返し批判していた。一発触発の空気が溢れ、これを契機に軍事的衝突が起こることも懸念された。

 このタイミングでペロシ議長が訪台することには、アメリカ国内では批判的な見解が多く見られた。

 たとえば、東アジア専門家でジャーマン・マーシャル・ファンド(GMF)アジア・プログラム部長のボニー・グレイザーとアメリカン・エンタープライズ・インスティチュート(AEI)のザック・クーパーは、『ニューヨーク・タイムズ』紙に寄せた論稿の中で、この訪問が台湾海峡での緊張を高め、米中衝突に繋がる危険性もあるとして警鐘を鳴らした[Bonnie S. Glaser & Zack Cooper, “Nancy Pelosi’s Trip to Taiwan Is Too Dangerous(ナンシー・ペロシの訪台は危険すぎる)”, The New York Times, July 28, 2022]。

 習近平が秋の共産党大会での異例の党総書記三期目を目指し、中国共産党指導層内がきわめて敏感なこの時期に、中国政府がアメリカに対して弱腰の姿勢を示すことはできない。また、一部の下院議員が進めている台湾政策法案が、従来のアメリカによる「一つの中国」政策を大きく修正するものになるという懸念が中国国内では見られる。このような背景も踏まえ、グレイザーとクーパーは、この時期のペロシ議長訪台が「あまりにも危険すぎる」と警鐘を鳴らした。

 同様に、米外交問題評議会のデイヴィッド・サックスもまた、習近平がこの秋の共産党党大会で総書記三期目に入る予定であること、そもそも中国国内では政権のゼロ・コロナ政策に対する不満が高まっており、習近平が台湾海峡危機を利用して国内での支持を高めようとするかもしれないことなどを踏まえると、今回のペロシ議長の訪台はタイミングの面で懸念すべきものであり、台湾訪問を秋の共産党大会以後に延期すべきだと論じた[David Sacks, “How to Survive the Next Taiwan Strait Crisis: Washington Must Be Ready For a Showdown With or Without A Pelosi Trip(次の台湾海峡危機を生き延びる方法:ペロシの訪台にかかわらず、ワシントンは対決に備えなければならない)”, Foreign Affairs, July 29, 2022]。

 ペロシ下院議長自らが、11月の米中間選挙を経て下院議長の任期が終わろうとしている中、長年の議員生活の「花道」として台湾訪問を利用しようとしていることは否めない。

 8月2日付の『ワシントン・ポスト』紙においては、ペロシ議長自ら、台湾訪問の意図を説明する文章を寄稿している[Nancy Pelosi, “Nancy Pelosi: Why I’m leading a congressional delegation to Taiwan(私が台湾への議員使節を率いる理由とは)” , The Washington Post, August 2, 2022]。

 ペロシ議長は、自らの台湾訪問は、民主制である台湾にアメリカが関与することを再確認し、人権侵害を続ける中国のような専制国家には屈服しない毅然とした姿勢を示すためのものである、という。今や世界は民主主義と専制主義の選択を迫られており、決して専制主義の圧力に屈してはならないのである。ペロシ議長によれば、43年前に米下院が台湾関係法を通過させてから、アメリカと台湾の間には民主主義や自由、人権の遵守などの共通の利益や価値があり、そのため今回の訪台は、民主主義のパートナーである台湾に対するアメリカの連帯を示すものである。

駐米中国大使による非難

 当然ながら、このようなペロシ議長の訪台に対しては、中国からの厳しい批判が噴出した。

 たとえば、その翌日の8月3日の『人民日報』紙においては、「祖国統一を実現する中国政府と中国人民の決意は盤石である」と題する論稿の中で、ペロシ議長の訪台が「一つの中国」原則および、米中間の三つの「共同コミュニケ」の重大な違反となり、米中関係に深刻な打撃を与え、中国の主権および領土の一体性を侵害したとして批判した[「中国政府和中国人民实现祖国统一的决心坚如磐石(祖国統一を実現する中国政府と中国人民の決意は磐石である)」、人民日報』、2022年8月3日]。

 これらの行動が「台湾独立」分離勢力に誤ったシグナルを送ることになり、結果的に中国が今後、対抗措置をとらざるを得ず、その責任はすべてアメリカおよび「台湾独立」分離勢力が負わなければならないと、非難する。

 また、ワシントンDCに駐在する秦剛中国大使は、『ワシントン・ポスト』紙に寄稿して、ペロシ議長の訪台とそれに対する台湾の民進党の歓迎がきわめて無責任であり、挑発的で、危険な動きだと批判した[Qin Gang, “Chinese ambassador: Why China objects to Pelosi’s visit to Taiwan(駐米中国大使―なぜ中国はペロシ下院議長の訪台に反対するのか)”, The Washington Post, August 4, 2022]。

 秦大使は、「一つの中国」原則は戦後国際秩序の不可欠な一部であり、国際社会の「総意」であるため、「ルールに基づく国際秩序」の擁護を主張するアメリカ政府は、このような国際社会の「ルール」に従わなければならないはずであるにもかかわらず、アメリカはそれに背き、「台湾独立」勢力を活気づけ、従来の「一つの中国」原則と、米中間の三つの「共同コミュニケ」に違反した行動をとっている、と主張する。

 他方、この寄稿においては、新型コロナやロシア・ウクライナ戦争が長期化する中で米中の協力が必要であり、また他国との連携も重要だとして、アメリカとの緊張を高めることを避けようとする姿勢も示されている。

 一部の報道では、ペロシ議長訪台の事前に、アメリカのホワイトハウスと中国の共産党指導層との間では、この問題を両国間の軍事衝突へと発展させないための一定のコミュニケーションがあったことが伝えられ、台湾の内部でもおおよそ冷静な対応が見られた。しかし、直ちに中国が台湾を武力統一することはないとしても、これを契機に中国が大規模な軍事演習を行ったことは、中国政府がそのための準備を怠っていないことを明らかにした。

3.台湾海峡のニュー・ノーマル?

対応が分かれた日本と韓国

 中国政府は、ペロシ議長の訪台をめぐる批判の対象をアメリカから日本へも広げ、アメリカとますます行動を一体化させる日本政府も非難した。

 8月5日の『環球時報』紙は、台湾問題について言及する資格が最もない国が、巨大な歴史的罪を犯した日本である、とする社説を掲載した[「社评:日本的“不安全感“纯粹是自找的(社説―日本の『不安全感』は自ら招いたもの)」、『環球時報』、2022年8月6日]。

 社説は、日本がペロシ議長訪台を機に緊張を煽り、火事場泥棒を働こうとしている、と続く。日本は中国人民解放軍の弾道ミサイルが「日本の排他的経済水域(EEZ)」に落下したと言うが、この海域は境界線が確定されておらず、仮に日本のEEZであったとしても、中国は軍事演習を行う権利があるとし、あくまでも、「航行の自由」や「ルールに基づく国際秩序」に従った行動だ、と主張する。そもそも中国にとっては、アメリカを攻撃するよりも日本を攻撃する方が容易であり、日本が標的となることを自覚するべきとして、「中国への内政干渉は必ず痛みが伴う」と警鐘を鳴らす。

 ペロシ議長訪台に理解と支持を示した日本と対照的であったのが、韓国である。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は自らが「休暇中であるため」として、台湾に続いて韓国を訪れたペロシ議長との面会を行わなかった。

 それに対して、韓国の保守系『朝鮮日報』紙の8月4日付の社説では、批判的な主張が示されていた[[사설] 펠로시 안 만나는 尹, 美・中에 잘못된 신호 주는 건 아닌지( [社説]ペロシ氏と会わない尹大統領、米・中に対し誤ったシグナルを送るのではないか)、『朝鮮日報』、2022年8月4日]。

 社説は、ペロシ議長が今回のアジア歴訪で、蔡英文総統、シンガポールのリー・シェンロン首相、マレーシアのイズマイウ・サブリ首相、そして日本の岸田文雄首相と会談したにもかかわらず、尹大統領のみ会談しようとしなかったのは、米中に誤ったシグナルを送ることになる、との懸念を示した。

米議会とホワイトハウスのずれ

 ペロシ議長の訪台は、米中間の緊張を高める結果をもたらしたが、一部での懸念に反して、軍事衝突にまで発展することはなかった。しかし、中国政府は対抗措置として大規模な軍事演習を台湾付近で行った。それによって、このような大規模な軍事演習が繰り返されるという台湾海峡における「ニュー・ノーマル」が創り出された、とCSISのボニー・リンと米国防大学のジョエル・ウスノフは指摘する[Bonny Lin, Joel Wuthnow, “Push-ing Back Against China’s New Normal in the Taiwan Strait(台湾海峡における中国のニュー・ノーマルを押し返す)”,War on the Rocks, August 16, 2022]。

 政治的には台湾に対する国際世論の連帯が強化されたが、軍事的には中国軍がより活発に軍事活動を行う口実を与えてしまった、とリンとウスノフは論じる。そのようななかで、中国軍の活動をよりいっそうの緊張感をもって警戒・監視し、米台共同軍事演習を増やすことで、中国軍が創り出した「ニュー・ノーマル」に対抗するべきだと論じる。

 フランスの政治学者であるリュック・フェリーも『フィガロ』紙で厳しい批判を展開した[Luc Ferry, “Une guerre avec la Chine, vraiment?(中国との戦争、本当か?)”, Le Figaro, August 11, 2022]。

 最悪のタイミングで行われたペロシ議長の訪台は米中間の緊張を高めただけでなく、中国をよりいっそうロシアに接近させ、「アメリカ側から緊張を高めている」という口実を中国に提供してしまったとし、それゆえ「もはやアメリカが自由世界の警察官ではないことを、再度示した」と論じる。そして「ナルシスト的な栄光の瞬間を求めた」ペロシ氏は、「世界で最も強力な二人の独裁者」を接近させるような材料を提供するべきではなかった、と指摘する。

 おそらくは、リチャード・アーミテージ元国務副長官とザック・クーパーの二人が『ウォー・オン・ザ・ロック』紙への寄稿で論じたように、米議会とホワイトハウスの間の認識のずれが、このような緊張をもたらしたのであろう[Richard L. Armitage and Zack Cooper, “Getting the Taiwan Policy Act Right(台湾政策法案を正しく立法せよ)”, War on the Rocks, Augst 29, 2022]。

 だとすれば、これから議会で討議される台湾政策法案においても、再び議会とホワイトハウスの間で認識のずれが生じるであろう。アーミテージとクーパーによれば、議会は「セオドア・ローズヴェルト大統領の助言通り、大股で歩くより、棍棒を見つけること」が重要だ。アメリカ議会が率先して米中の緊張をもたらすべきではない、というこの二人の指摘は、冷静で的確なものともいえる。

 他方、米中間の緊張はつねにアメリカの側がもたらしている、という中国政府のプロパガンダにもわれわれは影響されるべきではない。中国が、従来よりもいっそう台湾への軍事的圧力を高めていることこそが、台湾がアメリカの支援を求め、圧力に対抗しようとする原因でもあるからだ。  (続く)

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執筆者プロフィール
API国際政治論壇レビュー(責任編集 細谷雄一研究主幹)(エーピーアイこくさいせいじろんだんれびゅー)
米中対立が熾烈化するなか、ポストコロナの世界秩序はどう展開していくのか。アメリカは何を考えているのか。中国は、どう動くのか。大きく変化する国際情勢の動向、なかでも刻々と変化する大国のパワーバランスについて、世界の論壇をフォローするアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)の研究員がブリーフィングします(編集長:細谷雄一 研究主幹 兼 慶應義塾大学法学部教授)。アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)について:https://apinitiative.org/
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