自衛隊「常設統合司令部」は「屋上屋」か? (上) スタンド・オフ防衛能力の統合運用から考える

執筆者:小木洋人 2023年1月12日
タグ: 自衛隊 日本
エリア: アジア
陸海空自衛隊のアセット運用を最適な形で統合することが必要となる[JSM(統合打撃ミサイル)のイメージ=防衛省・自衛隊HPより]
東日本大震災などの経験から、防衛大臣に対する統合幕僚長の補佐機能に課題が生じることが理由とされがちな「常設統合司令部」創設だが、さらに重要な論点がある。その最たるものが「スタンド・オフ防衛能力」だ。行使能力を有する主体が陸海空自衛隊にまたがり、戦場では部隊間連携や友軍相撃の回避が不可欠であり、防衛力整備の観点では必要アセットが陸海空をまたいで保有されるこの能力獲得のために、「常設統合司令部」は鍵となるファクターだ。(下)はこちらからお読みになれます

 2022年12月16日、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画から成るいわゆる戦略3文書が発表された。戦略3文書は、反撃能力やスタンド・オフ防衛能力、無人アセット防衛能力等の強化を掲げるとともに、今後5年間で43兆円の防衛力整備に係る経費額を記載した。また、同年12月23日に閣議決定された令和5年度政府予算案においては、防衛関係費として前年度比約26.3%増となる約6.8兆円を計上し、12式地対艦誘導弾能力向上型や米国製ミサイル・トマホークの取得を始めとする各種大型事業を盛り込んだ。

 これほどまでに多くの施策や事業が記載されると、通常であれば大きく取り上げられる個別アイテムについての検証・レビューがそれほど注目を集めずなおざりになりやすい。国家防衛戦略と防衛力整備計画が掲げた常設統合司令部の創設もそうした施策の一つであるが、その影響や重要性を踏まえれば、決して見落としてはいけない論点である。

 本稿では、常設統合司令部創設の方向性について、新たに獲得するスタンド・オフ防衛能力等との関係に焦点を当てつつ考察してみたい。

「臨時」ならば現行自衛隊法でも可能

 武力行使を含め、自衛隊の実動任務(行動)は、統合運用が基本となっている。内閣総理大臣と防衛大臣は、自衛隊法第22条の規定に基づき、事態の種類に応じ自衛隊に出動を命じた場合、陸海空自衛隊のうち2つ以上の自衛隊にまたがるものを含め、特別の部隊を編成することができ、特別の部隊の運用に関する指揮は、統合幕僚長を通じて行うこととされている。編成された特別の部隊の指揮官は、しばしば「統合任務部隊指揮官」と呼称され、陸海空自衛隊の高位の指揮官が兼ねて充てられる例が見られる(例えば、空自の航空総隊司令官が弾道ミサイル防衛を担う「BMD統合任務部隊指揮官」として統合任務部隊を指揮するような例がある)。そしてそのような統合任務部隊指揮官への防衛大臣の指揮は、統合幕僚長によって執行されることになる。その意味で、事態に応じて非常設(臨時)の統合司令官(部)を設置することは、既に自衛隊法上可能となっている。

 一方、国家防衛戦略は、「統合運用の実効性を強化するため、既存組織の見直しにより、陸海空自衛隊の一元的な指揮を行い得る常設の統合司令部を創設する」ことを掲げている。臨時ではなく常設で統合司令部(官)を設置する意義はどこにあるのか。その理由として、統合幕僚長経験者は、防衛大臣の補佐や政府内他機関等との 同時並行的な調整が必要とされた東日本大震災等における対応をもとに、防衛大臣を補佐する統合幕僚長とは別に、平素から自衛隊全体を把握し、複雑な事態に対応するため、自衛隊の運用に専念する常設の統合司令官の必要性を訴えている1

 しかしながら、各種報告に忙殺されて自衛隊の運用に専念しづらいことと、統合幕僚長とは別の統合運用に関する組織が必要となることとは別の問題である。そもそも、防衛大臣の補佐は統合運用に関する防衛大臣への「最高の専門的助言者」として位置付けられている統合幕僚長の本来任務とも言うべきものである。また、統合幕僚監部には統合幕僚長を支える高位の統合幕僚副長も存在する。したがって、統合運用の調整を一元的に行う統合幕僚監部という幕僚組織は維持しつつ、これに属する高位将官の数を増やし、増大する報告・調整案件や複雑さを増す任務に対応するという代替案も論理的にはあり得る。

   そして、仮に統合司令官(部)を創設したとしても、当該司令官が防衛大臣や官邸への報告・命令なしに部隊運用を自由に行うことができるわけではない。軍事史家のローレンス・フリードマンは、新著『Command(指揮): The Politics of Military Operations from Korea to Ukraine』において、部隊指揮官と戦争や政治との関係について多数の事例に基づき論じているが、そこでは、例えば、2001年に開始されたアフガニスタン戦争では、作戦を統括するトミー・フランクス米中央軍(CENTCOM)司令官がジョージ・W・ブッシュ大統領に作戦計画を説明するためホワイトハウスに赴いたり、作戦計画の詳細を管理したがるドナルド・ラムズフェルド国防長官の性急な指示に苦慮したりする様子が描かれている2。軍事作戦は政治的な重要性を帯びるものであり、程度の差やその良し悪しの評価はさておき、いかなる国でも政治指導者と軍事指揮官の間のやり取りは発生する。政治と切り離され部隊運用のみに専念できる司令官ポストという考え方は幻想であろう。

   したがって、官邸や防衛大臣の補佐任務等の増大と常設統合司令官創設の必要性を直接結び付けるのは、論理的な飛躍がある。そうした任務が増えているのであれば、むしろ統合幕僚監部自体の機能的・量的拡大を図る必要がある。一方、統合司令部(官)の必要性は、陸海空自衛隊をまたいでそれら部隊を直接指揮・運用する任務あるいはその重要性の増大によって裏付けられなければならない。そして、それが臨時ではなく常設で保持しておかなければ機能しないものであることが必要だ。

   このように統合司令部(官)創設の必要性の議論が整理されていないことが、「結節が一つ増えるだけ」との懸念や「屋上屋を重ねる」との批判が提起されて議論が混乱している主たる要因であると考えられる3

スタンド・オフ防衛能力の運用に必要となる理由

 では、陸上総隊司令官、陸自各方面総監、自衛艦隊司令官、航空総隊司令官といった陸海空作戦部隊の最高位指揮官が事態に応じて兼ねて務めるのではない、常設・専従の統合司令官(部)が必要となる事情はどこにあるだろうか。

 まず前提として、広大な管轄地域ごとに割り振られた責任区域(AOR: Areas of Responsibility)を有する米軍地域別統合軍司令官とは異なり、自衛隊が有事の際に対処する作戦区域は日本全体となる可能性が高く、地域ごとの常設統合司令部を保持する政策上、運用上の必要性は高くない。したがって、日本において同様の仕組みを構築するのであれば、司令部(官)は日本全土の防衛を担当する単一の機構となるだろう。

   その上で、一口に統合運用といっても、陸海空自衛隊の部隊がそれぞれの自衛隊の高位指揮官の指揮を受けて、他自衛隊と時間的あるいは空間的に棲み分けられた形で任務を遂行する場合、常設により統合運用に特化した専門的機能を有する司令部を通じた指揮の必要性は高くはならない。例えば、弾道ミサイル防衛の場合、これまで海自イージス艦がミッドコース段階の迎撃を、空自ペトリオット部隊がターミナル段階の迎撃をそれぞれ分担しており、情報集約・共有や指揮は一元化する必要があるものの、必ずしも平素から立ち上がっている統合司令部がなければ運用できないというものではなかったと思われる。

   ところが、今後抜本的強化が掲げられているスタンド・オフ防衛能力は、既存の自衛隊の能力・任務とはやや性質が異なる。

   第一に、時間的、空間的にそれを行使する能力を有する主体が陸海空自衛隊にまたがることとなる。今後導入する射程延伸型12式地対艦誘導弾は、陸自が保有することとなる地上発射型だけでなく、海自・空自が保有することとなる海上発射型、空中発射型もある。同様に、対地攻撃用となるであろう島嶼防衛用高速滑空弾、極超音速誘導弾(対艦兼用)は陸自が保持する一方、トマホークは海自が、F-35に搭載するJSM(対艦兼用)、F-15に搭載するJASSMは空自がそれぞれ保持することとなる。もちろん、それぞれの射程に応じて同じ対艦用・対地用ミサイルでも時間的・空間的な役割は多少異なるものになることが想定されるが、実際の運用段階では、攻撃目標が重複する可能性も高く、タイムリーで無駄のない運用を行うためには、陸海空自衛隊のアセット運用を最適な形で統合することが必要となる。

   第二に、その帰結として、スタンド・オフ防衛能力の行使に当たっては、それを行使する側の航空・ミサイル部隊等とその前方で戦闘を行う部隊の連携と友軍相撃の回避が重要となる。

   湾岸戦争時、米軍においては、陸軍が地上部隊前方に空軍との火力発揮の棲み分けのために引く火力支援調整線(FSCL: Fire Support Coordination Line)を巡って、陸軍と空軍、中央軍司令部との間の連携不良が生じ、イラク軍地上部隊への対地攻撃が不十分となって多くを取り逃がす事態が発生したとされる。FSCL以遠の領域において、空軍は陸軍との調整を要さず自由に対地攻撃を行えるが、その内側の領域では陸軍も攻撃ヘリなどにより火力発揮が可能であるため、空軍が対地攻撃を行う場合、友軍相撃の回避や火力発揮最適化のため、陸軍との調整を要することとなる。湾岸戦争では、地上部隊の前進の速さを見込んでその遥か前方にFSCLを引いたことにより、空軍が臨機応変にFSCLの内側に所在するイラク軍を攻撃できず、空爆の空白地帯が生じたのである4。米空軍によると、同様の事例は、イラク戦争においても発生したとされている5

   ただし、湾岸戦争やイラク戦争とは異なり、日本有事の場合、想定される主な戦域は陸上より広域に及び、友軍の識別が比較的容易な海上であると考えられるため、その場合に必ずしも陸上と同様に前線における画一的な火力調整の仕組みが課題となるわけではない。

   むしろ、広域の海上・航空作戦においては、空域を含む三次元での戦闘空間の管理・指揮統制が重要となってくる。例えば、政府が導入を進めるスタンド・オフ・ミサイルのうち、島嶼防衛用高速滑空弾の飛翔高度は、大気圏外まで到達する通常軌道の弾道ミサイルより低い大気圏内を飛翔し、また、スクラムジェット推進の極超音速誘導弾は、その滑空弾よりも低い高度を飛翔することがイメージされている6。今後の開発状況によって詳細な性能が固まらないと確定的には言えないが、ミサイルの上昇段階や下降段階で、これらのミサイルよりも更に低い高度で飛行する空自の戦闘機や空中給油機等の運用と干渉しないよう、空域の調整などの統制措置が必要となる可能性がある7

   また、スタンド・オフ・ミサイルと同様に、無人機についても、今後、陸海空自衛隊それぞれが保有することとなるが、戦闘機よりやや低い高度で飛行するであろう中高度滞空型無人機を戦闘機と同時に運用する場合、ミサイルの斉射などの際に、両者の干渉を回避するための統制も必要となるだろう。こうした課題は、米国等による対ISIL(「イラク・レバントのイスラム国」)空爆においても認識されており8、今後、日本も有人戦闘機、無人機、ミサイルを同じ戦域で運用する場合、統合の視点で最適なアセットの棲み分けを行うための専門的司令部機能の必要性が高まると考えられる。

   第三に、防衛力整備計画は、スタンド・オフ防衛能力の実効性を確保する観点から、目標情報収集、探知・追尾のための衛星コンステレーションの利用や、無人機、目標観測弾等の整備を行うこととしている。ミサイル自体の整備と合わせれば、これらにより、地上及び海上目標の探知からターゲティング、破壊に至るまでの一連のキル・チェーンに必要なアセットが、陸海空自衛隊をまたいで保有されることとなる。そうだとすれば、一つの自衛隊の中でそのサイクルが完結するケースは想定しにくい。逆に言えば、スタンド・オフ防衛能力のキル・チェーンを回すのには最初から統合運用を前提とするほかなく、その指揮統制のため専門的な要員を保持しておくことが望ましい。

   第四に、日本が反撃能力やスタンド・オフ防衛能力を行使するに当たっては、日本に足らざる機能を中心に、日米での共同運用を考える必要がある。国家防衛戦略や防衛力整備計画は情報収集や目標のターゲティングなどの分野において日米共同運用の推進を掲げているが、これら部隊運用に直結する情報共有は、軍種ごとのみならず、平素から一元化された司令部間で行われることが望ましい。 (「下」に続く)

 

1]「「浮かんでは消えた」統合司令部、常設へ 安保3文書に記載」『朝日新聞』(2022年12月16日)、https://digital.asahi.com/articles/ASQDJ4JF9QDJUTIL00M.html?iref=pc_ss_date_article

2]Lawrence Freedman, Command: The Politics of Military Operations from Korea to Ukraine (Allen Lane, 2022), 404-411.

3]前掲注1;「社説 自衛隊の体制 組織改編は慎重な検討が要る」『読売新聞』(2022年12月1日)、https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20221201-OYT1T50064/

4]防衛研究所編『NIDS国際紛争史研究 湾岸戦争史』(2021年3月)、221-222、434-435、 474-478ページ。

5]US Air Force, “US Air Force Doctrine Publication 3-03: Counterland Operations” (October 21, 2020), 77.

6]福田浩一「島嶼防衛用高速滑空弾の現状と今後の展望」、8ページ、https://www.mod.go.jp/atla/research/ats2019/doc/fukuda.pdf

7]US Joint Chiefs of Staff, “Joint Publication 3-52: Joint Airspace Control” (November 13, 2014), appendix 1; US Air Force, “US Air Force Doctrine Publication 3-04: Countesea Operations” (November 19, 2019), 42.

8]Becca Wasser, et al., The Air War Against the Islamic State: The Role of Airpower in Operation Inherent Resolve (Santa Monica, Calif.: The Rand Corporation, 2021), 134, 164, 176-177.

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
小木洋人 アジア・パシフィック・イニシアティブ/地経学研究所国際安全保障秩序グループ 主任研究員。防衛省で総合職事務系職員として16年間勤務し、2022年9月から現職。2007年防衛省入省。2009年から防衛政策局国際政策課で米国以外の国では初となる日豪物品役務相互提供協定(ACSA)の国内担保法を立案。2014年から2016年まで外務省国際法局国際法課課長補佐として、平和安全法制の立案や武力行使に関する国際法の解釈を実施。2016年から2019年まで防衛装備庁装備政策課戦略・制度班長として、防衛装備品の海外移転の促進、ウクライナへの装備支援でも活用された外国軍隊への自衛隊の中古装備品の供与を可能とする自衛隊法規定の立案、防衛産業政策などを主導。2019年から2021年まで整備計画局防衛計画課業務計画第1班長として、陸上自衛隊の防衛戦略・防衛力整備、防衛装備品の調達を統括。2021年から2022年まで防衛政策局調査課戦略情報分析室先任部員(室次席)として、ロシアのウクライナ侵略、中国の軍事動向を含む国際軍事情勢分析を統括。2007年東京大学教養学部卒、2012年米国コロンビア大学国際関係公共政策大学院(SIPA)修士課程修了。
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