自衛隊「常設統合司令部」は「屋上屋」か? (下) 陸海空司令部の機能見直しは不可欠

執筆者:小木洋人 2023年1月13日
タグ: 自衛隊 日本
エリア: アジア
火力の精密性が向上した現代の戦争では分散・非集権的な作戦が鍵となる[発射されるウクライナ軍の高機動ロケット砲システムHIMARS](C)EPA=時事
現代の戦争では、情報収集・通信技術がハイレベルの指揮官や政治指導者による集権的な指揮を可能とする一方で、現場のハイテンポな展開は分散・非集権的な作戦実施の必要性を高めている。この一種の矛盾を解消しながら作戦を遂行するにはコマンド・チェーンの最適化が求められるが、単に「常設統合司令部」を設けるだけではその目的は果たせない。(上)はこちらからお読みになれます

平時から有事への「切れ目のない対応」という課題

 このように、自衛隊がスタンド・オフ防衛能力を保有した場合、従来の自衛隊の運用より更に高度で平素からの専門的知見の蓄積が必要な統合が求められる可能性が高い。防衛力整備計画において、スタンド・オフ防衛能力等を活用した「反撃能力の運用は、統合運用を前提とした一元的な指揮統制の下で行う」ことが記述されたのは、かかる事情によるものであろう。そして、そのような高度な指揮統制機能は、臨時に充てられた高位指揮官とその幕僚に担わせるよりは、常設統合司令官(部)が担う方が適切である。常設統合司令官(部)の役割は、これら新たに強化されるべき複雑な指揮統制機能を前提として整理すると、非効率な屋上屋や結節ではない組織の形が設計できると思われる。

 もっとも、常設統合司令部(官)が担うべき指揮統制機能は、スタンド・オフ防衛能力の運用のみに限られない。サイバー、電磁波など領域横断的に効果が及ぶ分野も陸海空自衛隊をまたいだ専門的な機能が求められるだろう。

 一方、常設統合司令部を創設した場合、判断が難しくなるのが、統合幕僚監部による執行・調整を通じて陸海空いずれかの自衛隊が主として担当してきた従来任務にどこまでこれを関与させるかの切り分けだろう。海自が担当する海上での警戒監視活動や空自が行う対領空侵犯措置などは、陸海空自衛隊をまたがる活動という側面は限られ、従来の指揮統制を大きく変更する必然性は高くないように思われる。

   しかしながら、これらの活動の指揮統制を「平時は陸海空自衛隊司令部が中心、有事における作戦は統合司令部が担う」と整理した場合、事態の急変、あるいはグレーゾーンを経て有事対応に移行する場合の切れ目のない(シームレスな)対応に支障が生じないか懸念もある。

   このため、平時における冗長な報告・決裁を排除しつつ、有事対応への円滑な移行を両立させるような柔軟な組織作りや任務付与が重要となるだろう。そのような平時の活動については、常設統合司令部は現場の状況認識に関する報告や情報共有を受けつつ、専門的な指揮統制はそれぞれの主要司令部に委任する形とするのが現実的である。

「分散的な運用」と「集権的な統合指揮」の両立が必要

   もう一つ見落としてはならないのは、陸海空自衛隊それぞれの運用を統括する主要司令部の上に統合司令部を設ければ、現場における統合運用が直ちに成立するわけではないという点である。特に、スタンド・オフ防衛能力のような現場における部隊間の複雑な連携を必要とする能力の運用に当たっては、最上位にある統合司令部を通じてしか統合の指揮統制がなされない場合、目標の探知から攻撃に至る迅速な意思決定に支障が生じるおそれがある。

   例えば、仮に、防衛力整備計画に記載された情報収集・ターゲティング用の無人機や目標観測弾を海自や空自が保持する場合、それぞれ、主要司令部である自衛艦隊司令部、航空総隊司令部の指揮を受ける部隊がその運用を担うこととなるだろう。一方、それらの部隊が収集した目標情報を基に陸自のスタンド・オフ・ミサイル部隊が攻撃を行う場合、当該ミサイル部隊は陸上総隊司令部や西部方面総監部の指揮を受けることになるかもしれない。そのような場合、これら情報収集部隊とミサイル部隊の統合は、陸海空主要司令部の上位に位置する統合司令部が行うこととなるが、統合司令部がこれら陸海空主要司令部を通じて指揮を行うとき、自衛隊法第22条の規定により陸海空主要司令部の司令官が臨時に統合任務部隊指揮官となる現行制度の場合と比べて、指揮の階層が一つ増えてしまう。

   もちろん、現場の部隊やアセット間におけるリアルタイムの情報共有・連携がなされ、あらかじめ各部隊に作戦・戦術面の判断権限が明確に委任されていれば、常に最上位の統合司令部に判断を仰ぐことにはならないかもしれない。しかし、ひとたび現場で判断の難しい事象が生じれば、長いコマンド・チェーンが迅速な意思決定にとってデメリットと化す状況も生じかねない。

   また、より一般化して言えば、情報収集・通信技術の進展は、高位指揮官や政治指導者がリアルタイムで現場の状況を把握することを可能とし、指揮統制の集権化を促す一方で、ハイテンポの作戦中は、現場における分散・非集権的な意思決定の圧力を生むという、相反する帰結をもたらしている9。そして、ロシア・ウクライナ戦争におけるウクライナ軍の戦い方が示したように、火力の精密性が向上した現代の戦争では、部隊の生存性を確保するためには、機動能力を活かした分散・非集権的な作戦が鍵となる。部隊を分散運用した結果、ウクライナ軍においては、通常は旅団規模(数千人)の部隊がカバーする領域で、大隊規模(数百人)の部隊が対応しているとされる10。また、ウクライナ軍に限らず、地上部隊の地理的分散は、米軍等の作戦においても見られる歴史的なトレンドとなっている11。その帰結は、現場部隊指揮官による分散・非集権的な作戦実施の重要性の向上である。しかしながら同時に、情報収集やスタンド・オフ火力を始めとする地上部隊が自前で賄えない能力を他の部隊に依存することに変わりはないので、現場のニーズを踏まえた多様な能力を統合する指揮統制機能の必要性は高まるばかりである。

   これらの観察を踏まえると、今後の効果的な作戦遂行では、現場部隊における非集権的・自律的な作戦遂行能力と、その方向性をあらかじめ大枠で定めつつ、現場部隊が必要とする複合的能力を統合で提供できる集権的な指揮統制能力を両立させることが決定的に重要となると考えられる。米軍では、類似の考え方を、任務遂行型の命令に基づく分散的な実施を通じた軍事作戦の遂行を意味する「ミッション・コマンド」という概念によって整理している。指揮官は集権的・包括的な命令・指示を下し、その隷下部隊は、その範囲内で、自律的・独立的に任務を遂行していくことが求められている12

   しかし、言うは易し、行うは難しであり、一方ではマイクロマネジメントの、もう一方では現場の状況を把握できず事態から取り残されていく指揮の危険性と常に隣り合わせの考え方である。良い組織や制度を作れば直ちに問題を解決できるわけではないが、常設統合司令部創設に当たっては、常にこうした課題を念頭に置いて指揮統制の在り方全体を議論する必要がある。

既存組織見直しは「パッケージ」

   国家防衛戦略は、「既存組織の見直しにより」常設の統合司令部を創設するとしており、統合司令部創設に当たっては、パッケージで既存組織の見直しが行われることを示唆している。いわゆるスクラップ・アンド・ビルドである。しかし、良い戦略や計画を作っても、その実施段階が悪ければ、良い結果は生まれない。常設統合司令部(官)創設の場合、国家防衛戦略に書くだけでは実現せず、必ず自衛隊法改正を伴うので、その内容をしっかり吟味する必要がある。

   この点、常設統合司令部創設に当たっては、いかなる既存組織が見直されるのかに注目することが必要だ。特に、これまで報道されているような統合幕僚長の職務増大が問題だという前提に立つならば、統合幕僚長を防衛大臣等の補佐に専念させ、一方で統合司令官を部隊運用に専念させるため、従来の統合幕僚監部の任務を二つに切り分ける形も想定される。しかし、そのような組織改編は避けるべきである。内閣総理大臣や防衛大臣を専門的立場から支える統合幕僚長や統合幕僚監部の職責が増加の一途を辿ると予想される中、その組織を二つに割ることは、むしろ陸海空自衛隊主要司令部に対する指揮統制能力を弱め、統合運用の強化という政策目標とは逆の結果を生む可能性があるからだ。

   また、上記で述べたスタンド・オフ防衛能力の運用に係る複雑な火力調整や友軍相撃防止、情報共有・指揮統制の仕組みは、統合司令部において事態に応じアドホックに整理されるのではなく、あらかじめ陸海空自衛隊にまたがるドクトリン(教義)やマニュアル(教範)の形で教育段階から定め、有事における現場部隊の非集権的な指揮統制や異なる現場部隊間の連携要領の大枠を示す基礎としておく必要がある。そして、そのような統合作戦を支援する運用コンセプトや教育内容を定める活動は、陸海空自衛隊が別々に行っていては運用段階で支障を来すので、統合幕僚監部の仕事とすべきである。そのような極めて重要な業務が増大することを前提とした場合、統合幕僚監部の組織を縮小することは適切でない。

   むしろ、見直す必要がある既存組織は、陸海空の主要司令部だろう。とりわけ、2018年に陸上部隊の全国運用を行い得る権限を持つ陸上総隊司令官が創設された中で、有事に部隊を指揮する可能性が低く、専ら部隊の供給元となることが想定される陸自の西部方面総監以外の4つの方面総監やその司令部である総監部(北部方面、東北方面、東部方面、中部方面)の部隊運用部門は、抜本的に縮小・見直しの対象とすべきである。また、それ以外の陸自陸上総隊や西部方面総監部、海空自衛隊の作戦司令部である自衛艦隊司令部と航空総隊司令部についても、常設統合司令部との関係で、指揮関係を効率化すべき部分があるかもしれない。

   例えば、統合司令部の下で、火力支援やターゲティングなどに関し、現場部隊間の連携を技術的に支援する計画を策定するための調整所を設け、そこに統合司令部や陸海空主要司令部・部隊の専門要員を集めることにより、指揮統制や調整を円滑化することも一案だろう 。現場部隊の分散的な運用と集権的な統合指揮を両立させるには、単に組織を作るだけでなく、組織作りと運用の中間にある仕組み作りが重要である。

 今回の戦略3文書に基づく防衛力の強化は、スタンド・オフ防衛能力など従来自衛隊が保有してこなかった新たな能力を伸ばすものだが、既存の部隊の規模や役割を抜本的に見直すことと必ずしもセットで位置付けられていないことに弱点がある。しかし、新たな能力に対する指揮統制をいかに効果的に及ぼすのかを検討する場合、必然的に既存組織の見直しに手を付けざるを得ない。常設統合司令部の創設は、そのような影響を内在するものであり、その機能を最適化・最大化できるか否かは、今後の戦略文書の実施段階にかかっている。

 

9]Freedman, Command, 496.

10]Mykhaylo Zabrodskyi, et al., Preliminary Lessons in Conventional Warfighting from Russia’s Invasion of Ukraine: February–July 2022 (London: Royal United Services Institute for Defence and Security Studies, November 30, 2022), 53, 62.

11]Freedman, Command, 496, 499-503; Stephen Biddle, Nonstate Warfare: The Military Methods of Guerillas, Warlords, and Militias (Princeton, NJ: Princeton University Press, 2021), 64-66.

12]US Joint Chiefs of Staff, “Joint Publication 1: Doctrine for the Armed Forces of the United States” (March 25, 2013), V-15-18.

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
小木洋人 アジア・パシフィック・イニシアティブ/地経学研究所国際安全保障秩序グループ 主任研究員。防衛省で総合職事務系職員として16年間勤務し、2022年9月から現職。2007年防衛省入省。2009年から防衛政策局国際政策課で米国以外の国では初となる日豪物品役務相互提供協定(ACSA)の国内担保法を立案。2014年から2016年まで外務省国際法局国際法課課長補佐として、平和安全法制の立案や武力行使に関する国際法の解釈を実施。2016年から2019年まで防衛装備庁装備政策課戦略・制度班長として、防衛装備品の海外移転の促進、ウクライナへの装備支援でも活用された外国軍隊への自衛隊の中古装備品の供与を可能とする自衛隊法規定の立案、防衛産業政策などを主導。2019年から2021年まで整備計画局防衛計画課業務計画第1班長として、陸上自衛隊の防衛戦略・防衛力整備、防衛装備品の調達を統括。2021年から2022年まで防衛政策局調査課戦略情報分析室先任部員(室次席)として、ロシアのウクライナ侵略、中国の軍事動向を含む国際軍事情勢分析を統括。2007年東京大学教養学部卒、2012年米国コロンビア大学国際関係公共政策大学院(SIPA)修士課程修了。
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