【Analysis】「気候変動」を無視した迷走が続く「インド・パキスタン水紛争」

2023年4月6日
タグ: 気候変動
エリア: アジア

ラダック地方を流れるインダス川[2018年6月3日](C)Reuters

[スリナガル発(トムソン・ロイター財団)]気候変動の影響が激化し、水の安全保障がインド、パキスタン両国にとってより大きな懸案となる中、成立から60年以上経つ水分配条約を見直そうとインドが提案している。だが、パキスタンは今のところ賛同していない。

 条約の改定交渉、あるいは微調整でもできれば、インドだけでなくパキスタンにとっても意義は大きいと専門家は指摘する。なぜなら、両国がダム建設を進め、人口拡大による水需要が増し、旱魃と洪水がかつてより頻繁に繰り返される状況で、水の確保とアクセスは双方にとってこれまで以上に切迫した問題となっているからだ。

 1960年に世界銀行の仲介で締結されたインダス水利条約は、インダス川本流、ジェラム川、チェナブ川の80%をパキスタン、20%はインドに帰属するとした上で共同管理を定めたものである。膠着、小競り合い、時には戦争にも耐えて、この条約は生き延びてきた。だが、カシミールの領有を巡って緊張が高まった結果、2019年以降、インド・パキスタン間の外交関係は冷え、今度は水の共同管理と供給を巡って両国間の緊張は高まっている。

 稼働中と建設中を合わせ、両国ともインダス盆地に数十の水力発電所を保有するが、現在、パキスタンが反発して争いになっているのは、インドがジェラム川で進める出力330メガワットのキシャンガンガ水力発電所プロジェクトと、チェナブ川の出力850メガワットのラトル水力発電所プロジェクトだ。

 このふたつに関してパキスタンはハーグの国際仲裁裁判所に申し立てをした。一方、インドは第三者機関の介入を嫌い、二国間交渉による条約の修正を求めている。条約の規定により、紛争は仲裁裁判所の裁定か、世界銀行が指名した中立的な専門家による仲介で解決することになっている。

 パキスタンは、インドが建設しようとする水力発電所とダムによって、自国の灌漑農場が必要とする水資源の80%が届かなくなると恐れ、仲裁裁判所に申し出る道を選んだ。一方インドは、水力発電所は条約に反しない形で設計され建設されていると主張する。

 イスラマバードの環境開発アナリストのアリ・タキア・シークによると、条約には出口条項がないために、双方、一方的に条約から脱退することはできない。両国は現実的な解決策に同意しなければならず、増大する気候変動のプレッシャーこそ「水にまつわる協力と地域の安定を確保するための最良の道具」だとシークは指摘している。

 だが、パキスタンがインドとの二国間交渉を再開する可能性は低いと見られる。なぜなら、インドに比べると小さな国であるパキスタンは、国際機関を関与させる方が自国の立場を強められると考えるからだ。……

 一方で、気候変動の現実を踏まえると、条約を改定する方が良いと考える研究者もいる。

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