曖昧なる「グローバル・サウス」概念に頼る日本の甘さ――G7広島サミット・批判的検証

「グローバル・サウス」は消え、「パートナーシップ」が強調されたG7広島サミット(G7広島サミットHPより)
日本政府が執着した「視点」である「グローバル・サウスへの関与の強化」は後退し、代わって「パートナーシップ」がキーワードとして前面に押し出された。この一見些細にも見える錯綜は軽視できない。大きな達成を得たサミットとはいえ、異なる世界観が激しくぶつかりあっている国際政治の現実を認識しない日本の甘さと、「自由で開かれたインド太平洋」や対BRICS外交に関する失策も浮かび上がる。

 G7(主要7カ国)広島サミットは、強い印象を残す会議となった。G7メンバー全員が並んで原爆死没者慰霊碑に献花する姿、岸田文雄首相とウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が並んで献花をする姿は、文字では表現することができない強烈な印象を作り出した。

 G7の首脳たちが、「G7はかつてなく団結している」という言葉を残しているが、それは広島の地で開催されたサミットの高揚感の表れでもあっただろう。その「団結」が、最大の議題の当事者であるゼレンスキー大統領にまで及んだことは、G7広島サミットの最大の見せ場となった。

 だが当然のことながら、今回の会議で達成されたことと達成されなかったことがある。核廃絶論者の期待に応えていない、という批判の声も出た。政策的立ち位置の違いから、もともとG7が目指していなかったこともあるだろう。それ以外に、誰かが達成しようとしたのに達成できなかったことも、気になる。

 本稿では、G7広島サミットで見られた微妙なすれ違いにこそ、国際政治の複雑な事情の反映がある、という観点から、「パートナーシップ」と「グローバル・サウス」をキーワードにした検証を試みる。

G7における「グローバル・サウス」の影

 日本政府関係者は、事前に設定したサミットを貫く「視点」の筆頭に「法の支配に基づく国際秩序の堅持」と並べて、「グローバル・サウスへの関与の強化」をあげていた。 

 ところがサミットに先行して4月に行われたG7外相会合で、「グローバル・サウス」の概念をコミュニケなどに入れることへの異論がアメリカなどのメンバーから出た。そこで公式発出文書でこの視点が参照されなくなった。 

 ただし、恐らく事前に事務方が用意したペーパーに依拠していたのだろう。林芳正外務大臣は、外相会議後の記者会見で、「いわゆるグローバル・サウス」なる概念にふれて、微妙なチグハグさを見せる発言をした。……

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カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
篠田英朗(しのだひであき) 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程、ロンドン大学(LSE)国際関係学部博士課程修了。国際関係学博士(Ph.D.)。国際政治学、平和構築論が専門。学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験を持つ。日本政府から派遣されて、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)で投票所責任者として勤務。ロンドン大学およびキール大学非常勤講師、広島大学平和科学研究センター助手、助教授、准教授を経て、2013年から現職。2007年より外務省委託「平和構築人材育成事業」/「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」を、実施団体責任者として指揮。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築入門』、『ほんとうの憲法』(いずれもちくま新書)、『憲法学の病』(新潮新書)など多数。
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