オペレーションF[フォース] (22)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第22回

執筆者:真山仁 2023年7月22日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】主税局の土岐は、防衛費倍増に向けた財源確保のスキーム作りに頭を悩ませていた。保育園に幼い息子を迎えに行った暁光新聞の草刈摂子は、ママ友から増税に猛反対される。

 

Episode3 リヴァイアサン

 

4(承前)

「ちょっと黙って。ママは、今、大事な話をしてるの。ねえ摂子さん、ちょっと教えて欲しいんだけど、政府がガソリン代の値上げ分を補填しているって、本当?」

「ええ。円安の影響で石油などのエネルギー資源が高騰していますから」

「テレビで観たんだけど、一日で300億円もかかってるんですって」

「えっと、100億円ですね」

「それでも、既に総額1兆円以上使ってんでしょう。そのお金を、防衛費に回してよ」

「でも、そんなことしたら、ガソリン代が、リッター200円とかになりますよ」

「SDGsを考えたら、ガソリン車なんて、全部やめるべきだし、それでも走らせたかったら、車に乗る人からだけ、税金取ればいいじゃん」

「そんなことしたら、宅配料金とかバス代とかも値上がりしますよ」

「それは、反対。そういうのは、企業努力と国の支援でなんとかして欲しい」

 まあ、彼女の発想は、一般庶民の代表とは言わないが、ありがちな意見であるのは、間違いない。

「ママぁ、オシッコ」

 翔君の一言のお陰で、草刈はようやく解放された。

 

5

 大学の正門前で、土岐とも別れた周防は、JRで荻窪に向かった。

 5年前に急逝したSF作家桃地実[ももちみのる]の夫人と会う約束があった。

 桃地が遺した膨大な資料のうち、周防の役に立ちそうなものを見せてくれるのだという。

 生前の桃地は、近未来の日本に警鐘を鳴らすSF小説を多数発表してきた。

 周防は、中学生の時に読んだ『時の旅人』以来の大ファンで、日本列島が大地震と津波で海の藻屑と消える『ニッポン崩落』や、核戦争の愚かさを描いた『サイロ』を読んで、自分も大人になったら、日本を救う人になりたいと思った。……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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