Weekly北朝鮮『労働新聞』 (27)

軍事偵察衛星をめぐる金正恩政権の焦燥感(2023年8月20日~8月26日)

執筆者:礒﨑敦仁 2023年8月28日
タグ: 北朝鮮 金正恩
エリア: アジア
8月21日、堤防が決壊して冠水した平安南道の安石干拓地の被災現場で、腿まで浸かって現地指導する金正恩総書記(中央)。趙甬元書記(左隣)や朴正天氏(右隣)の同行が確認できるが、金徳訓総理の姿はなかった[『わが民族同士』HPより]
台風被害の復旧に関して金徳訓総理が糾弾されたが、今のところ失脚までには至っていない模様。また北朝鮮国内では報じられなかったが、24日に打ち上げ失敗した軍事偵察衛星の再打ち上げを「10月」としたことは、衛星をできるだけ早く保有したい金正恩総書記の考えを示すと見られる。『労働新聞』注目記事を毎週解読
 

 引き続き金正恩(キム・ジョンウン)総書記の動静報道が多い。8月24日付1面トップは、南浦(ナンポ)市にある金星トラクター工場を現地指導したとのニュースであった。同工場は3代の最高指導者が何度も足を運んできた主力工場の1つであり、農業分野重視の表れである。

 先立って22日付1面トップは、平安(ピョンアン)南道干拓地建設総合企業所安石(アンソク)干拓地の被害復旧現場への現地指導を報じていた。南浦市温泉(オンチョン)郡石峙(ソクチ)里にある安石干拓地の堤防に対する排水構造物設置工事に不備があったことから堤防が決壊し、水稲を植えた約270ヘクタールを含む計560ヘクタールあまりの干拓地が冠水したという。

「無責任」「職務怠慢」と金徳訓総理を糾弾

 ここで注目されるのは、朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員でもある金徳訓(キム・ドックン)内閣総理が「無責任な職務怠慢行為」を働いたとして金正恩から強く糾弾されたことである。「内閣総理は傍観的な態度で現場を1、2度回ってみて、副総理を派遣するのにとどまり、現場に出向いた副総理なる者は燃油供給員の役しかせず、主人として工事を直接指揮すべき干拓地建設局長は、自分は特にすることがないので帰ると党委員会に提起して批判を受けても、ほとんど企業所の事務室に居座って無為徒食し、排水門工事用として国家から供給された多くの燃油を別に取っておいて密かに隠匿するという行為までしたというが、本当になっていない連中だ」と怒り心頭なのである。

 金正恩は、「最近の数年間に金徳訓内閣の行政経済規律がだんだんと甚だしく乱れ、その結果、怠け者どもが無責任な働きぶりで国家経済事業を全て駄目にしている」と述べたほか、「内閣が指令を下すことしか知らない指令部署、通報部署のようになったのは国家経済事業と経済機関に対する党政策的および党的指導を担った党中央委員会の責任も大きい」とも語っている。……

カテゴリ: 政治 社会
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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