ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創始者、エフゲニー・プリゴジン氏らワグネル幹部の8月23日の航空機事故死の謎を解くキーワードは、「アフリカ」と「選挙」にありそうだ。
プリゴジン氏らはマリなどアフリカを歴訪後、モスクワに立ち寄ってプーチン政権幹部と協議し、サンクトペテルブルクに向かう自家用機に仕掛けられた爆弾の爆発で墜落死した可能性が強い。背後にアフリカをめぐる利権闘争がうかがえる。
また、ロシアは9月10日の統一地方選、来年3月17日の大統領選を控え、秋から政治の季節に入るだけに、プリゴジン氏が政治活動を行い、社会混乱につながる事態を防ぐ狙いもあったとみられる。
2カ月前の6月23日、ワグネルの反乱が起きると、ウラジーミル・プーチン大統領は首謀者を「裏切者」と称し、「厳罰に処す」と約束しており、2カ月の空白を経て実行したかにみえる。反乱時に動揺したエリートへの見せしめ効果も狙ったかもしれない。
『ゴッドファーザー』のようなフィナーレ
プリゴジン氏らが乗ったブラジル製のプライベート・ジェットが墜落した8月23日夜、プーチン大統領はロシア南西部クルスクで行われた「クルスクの戦い勝利80周年記念式典」に出席し、演説していた。
英紙「フィナンシャル・タイムズ」(8月24日)によれば、ステージ上のプーチン大統領は赤い光に包まれ、交響曲が流れる中、笑みを抑えきれない様子だったという。非政府組織(NGO)・「クライシス・グループ」の上級アナリスト、オレグ・イグナトフ氏は同紙で、「映画『ゴッドファーザー』そのままのフィナーレだった」とコメントした。
墜落事故では、プリゴジン氏のほか、ワグネルの軍事部門指導者でナンバー2のドミトリー・ウトキン氏、ビジネス活動を担当したナンバー3のワレリー・チェカロフ氏ら乗員・乗客10人が全員死亡し、ワグネルは一網打尽にされた。
6月の反乱計画を事前に知っていたとされるワグネル・シンパのセルゲイ・スロビキン航空宇宙軍総司令官も同日、正式に解任された。国防省批判を展開していた前線司令官のイワン・ポポフ氏ら15人前後の軍幹部もそれ以前に更迭されている。
交響曲が流れる中、敵のマフィア幹部を一網打尽にするフランシス・コッポラ監督の映画『ゴッドファーザー』を彷彿とさせる幕切れとなった。プーチン大統領もかつて、ウクライナの親露派オリガルヒ、ビクトル・メドベチュク氏の娘の名付け親になり、「ゴッドファーザー」を気取ったことがある。
英国の社会学者、スベトラーナ・スティーブンソン・ロンドン・メトロポリタン大学教授は独立系メディア「ノバヤ・ガゼータ」(8月25日)に寄稿し、「プーチンは反旗を翻した側近を大胆に殺害したことで、マフィアのボスのような強さを見せ、自らの支配への挑戦を許さない強い決意を示した」と書いた。
米紙「ウォールストリート・ジャーナル」(8月26日)も、「プリゴジンの死は、ロシアが暴力によって統治されるマフィア国家へ進化したことを浮き彫りにした」と報じていた。
GRUのアフリカ進出阻止を狙って政権と対立?
プーチン大統領は8月24日、併合したウクライナ東部「ドネツク人民共和国」のトップと会談した際、プリゴジン氏の死に弔意を表明した中で、「彼はわが国だけでなく、海外、特にアフリカで働いた。石油、ガス、貴金属、宝石の事業に携わった。私の知る限り、昨日、彼はアフリカから戻り、モスクワで何人かの関係者と会ったところだった」と述べていた。この発言に、墜落事件の謎を解く手掛かりがあるかもしれない。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。