オペレーションF[フォース] (32)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第32回

執筆者:真山仁 2023年9月30日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】対馬沖で起きた台湾海軍潜水艦の衝突事故。舩井防衛大臣は、中国に対する自衛隊の出動を米軍に密約していた。防衛省の磯部は暁光新聞の草刈に、その事実をリークする。

 

Episode4 カナリア

 

5

 大臣官房に戻ってすぐに、磯部は異変を感じた。

 緊張感が漲っている。

「何があったんだ?」

 眉間に皺を寄せてパソコンに向き合っている夏木正代[なつきまさよ]に尋ねた。

「これを、見て下さい」と言いながら、夏木が示したディスプレイには、台湾籍潜水艦と日本の延縄漁船の衝突現場が映し出されていた。

 1時間ほど前に見た時より深く沈んでいる潜水艦の周囲に、4隻の艦船が集結している。いずれも、中国軍のものだった。

 中国軍が救出しようとしているのだろうか。

「中国艦船が、『海隼』を拿捕するつもりのようだ」

 茫然と見ている磯部に、官房長の辻岡が大画面モニターに映る映像を示しながら言った。

「救出ではないんですか」

「フリゲート艦に加え、『052C』が2隻、現れた」

「052C」とは、中国人民解放軍海軍ミサイル駆逐艦052C型駆逐艦のことだ。

 フリゲート艦は、船団保護や哨戒が目的で、以前から、日本近海で目撃されているが、ミサイル駆逐艦は、その名の通り敵を駆逐するのが目的だ。

 しかも、「052C」は、最新鋭ミサイル艦で、対空、対艦、対潜のミサイルを搭載している。

「さらに、サルベージ船まで待機している」

 つまり、中国軍が台湾の潜水艦を引き揚げ、拿捕するつもりということだ。

 “海上自衛隊第1潜水隊群第3潜水隊「おうりゅう」より入電。

『海隼』衝突現場から、約200メートル西に、中国籍とみられる原子力潜水艦を確認!“

 統合幕僚監部とのホットラインが伝える。

「『おうりゅう』は、どこにいるんですか」

「日本の排他的経済水域(EEZ)内で、事故対応をウォッチしている」

 それだと、防衛出動ではなく、あくまでも哨戒活動中に、事故に遭遇したという理屈となる。

 それにしても、事故現場付近に原潜が現れるとは、中国は本気で開戦しようとしているのだろうか。……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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