イスラエル諜報機関は、イスラエルそのものを理解できていなかったかもしれない

Foresight World Watcher's 7Tips

執筆者:フォーサイト編集部 2023年10月13日
エリア: 中東
イスラエル国内の政治危機がハマスの認識に与えた影響も重要なファクター[ブリンケン米国務長官との会談後、会見を行うネタニヤフ首相=2023年10月12日、イスラエル・テルアビブ](C)AFP=時事

 今週もお疲れ様でした。ハマスによる大規模な攻撃を、「最強」とも称されるイスラエルの情報機関がなぜ察知できなかったか。この1週間、様々なメディアが注目したテーマですが、実は必要な情報は握っていたとの指摘も少なくありません。

 ただ、それが政権中枢を動かすには至らなかった。米国諜報機関が9.11を防ぐチャンスを幾度も逃した経緯を想起させるこの問題は、イスラエルの安全保障能力そのものに対しての疑問符に繋がります。この数年の中東諸国とイスラエルの接近には、イスラエルが提供できる安全保障能力が誘因になってきた側面もあるはずです。「パレスチナの大義」に加えて、今後の中東諸国とイスラエルの関係に影を落とす要素に数えておくべき問題だと考えます。

 フォーサイト編集部が週末に熟読したい記事、皆様もよろしければご一緒に。

From hubris to humiliation: The 10 hours that shocked Israel【Marwan Bishara/Aljazeera/10月7日付】

Israel's leaders should learn from Churchill【Naveh Dromi/Jerusalem Post/10月12日付】

The path to peace: Where do we go from here?【Nitsan Joy Gordon/Jerusalem Post/10月12日付】

「イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が国連で自慢げに演説し、イスラエルと新たなアラブのパートナーの国々とを中心とした新たな中東の誕生を宣言した数日後、彼が夢見る地域構想から完全に省略されたパレスチナ人が、彼とイスラエルに政治的にも戦略的にも致命的な打撃を与えた」
「これから起きる変化は、[中略。イスラエル人とパレスチナ人という]2つの国・地域の人々が全体として平和に暮らしたいのか、それとも戦って死にたいのかという問いへの答えで決まる。その中間を選ぶための時間と空間は、もう失われてしまった」
​「パレスチナ人は今日、屈辱にひざまずいて死ぬより、正義と自由のために自分の足で戦うことを望むことを明らかにした。イスラエルが歴史の教訓に耳を傾けるときが来た」

 これはカタールを本拠とするアラブ圏最大のニュースチャンネル、「アルジャジーラ」のサイトのオピニオン枠に掲載された「傲慢から屈辱へ イスラエルに衝撃を与えた10時間」の文頭と文末。筆者はアルジャジーラのシニア・ポリティカル・アナリスト、マルワン・ビシャラで、掲載は10月7日付。ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃が行われたその日だ。

 続いての引用もオピニオン枠からだが、イスラエルの大手英字紙「エルサレム・ポスト」のもの。イスラエル人ジャーナリストで米国の保守系シンクタンク、中東フォーラム(MEF)のイスラエル事務所のディレクターを務めるナヴェ・ドゥロミによる「イスラエル指導者たちはチャーチルに学べ」で、イスラエルの反攻が本格化する気配の明らかになった10月12日付だ。

「ここ数日、私たちは『勝利』という言葉をよく耳にした。ベンヤミン・ネタニヤフ首相をはじめ、政府閣僚、野党指導者、国防軍幹部、その他の意思決定者やオピニオン・シェイパーたちから」
「これは私たちが選んだ戦争ではなく、敵の言いようのない蛮行と非人間的な行為によって押しつけられた戦争なのだ」
「指導者たちは[英首相ウィンストン・]チャーチルの言葉と狙いを共有しなければならない。それらはすべて、たったひとつの言葉と途切れることのない枠組みを指し示している」「[以下はチャーチルの1940年の議会演説からの引用]それは勝利であり、あらゆる犠牲を払っての勝利、あらゆる恐怖に打ち勝っての勝利、どんなに長く険しい道のりのであろうとも掴み取るべき勝利である。勝利なくして生存はない」

 2つの論考の隔たりの大きさには、あらためて事態の深刻さを思い知らされるのだが、とはいえ、「~チャーチルに学べ」が載ったエルサレム・ポストのオピニオン枠には同じ12日付で次のような寄稿も見られる。

「ハマスが犯した恐ろしい行いを正当化できるものなど何もないことを私は知っている。そして、ヨルダン川西岸地区やガザ地区のパレスチナ人のような人々の苦しみに対して自分が心を閉ざしたくないことも知っている」
「人々が犯す悪行と闘わなければならないときがあり、今回もそのひとつだが、ガザを荒廃させることが最終的に調和と平和をもたらすとは思えない。私たちは、この紛争を実際に解決する方法を見つけなければならない」

 この「平和への道 われわれはここからどこへ進む?」の筆者は、イスラエルの女性支援団体「トゥゲザー・ビヨンド・ワーズ(Together Beyond Words)の代表、ニツァン・ジョイ・ゴードン。この団体にはアラブ系ユダヤ人やイスラエル系パレスチナ人も参加しているという。イスラエルの世論が報復一色ではないこと、戦争に懐疑的な声もメディアが取り上げていることを心に留めておきたい。

What Israeli Intelligence Got Wrong About Hamas【Elena Grossfeld/Foreign Policy/10月11日付】

Israel's Intelligence Disaster【Amy Zegart/Foreign Affairs/10月11日付】

Hamas's attack was an Israeli intelligence failure on multiple fronts【Economist/10月9日付】

「イスラエルが誇る諜報機関は、ハマスの攻撃を予測することに失敗した[中略]。しかし、おそらく1000人を超える兵員と2000発以上のミサイルによる攻撃を察知するのに必要な材料をイスラエル情報機関が握っていた可能性は高い」

 こんな書き出しで始まるのは、米「フォーリン・ポリシー(FP)」誌サイトに英ロンドン大キングス・カレッジ博士課程在籍者のイレーナ・グロスフィールドが寄せた「イスラエル諜報機関はハマスの何を読み違えたのか」(10月11日付)。……

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カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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