フランス総選挙中間報告(中) 右翼右派の連携を目論む「メディア王」

執筆者:国末憲人 2024年6月26日
エリア: ヨーロッパ
ドゴールの精神を汲む「レピュブリカン」と対独協力者も多数かかわった右翼運動を源流に持つ「国民連合」は、本来は犬猿の仲だった[「国民連合」の記者会見に登場したルペン氏(右)と「レピュブリカン」党首のシオティ氏=2024年6月24日、フランス・パリ](C)AFP=時事
右派躍進が欧州を覆う一方で、各国の国内政治には一様ではない力学が見て取れる。フランスでは、極右からの脱皮を図る「国民連合」(RN)が右派中核として機能しにくい点が注目だ。マクロンの解散総選挙宣言を受けて国民連合に接近した「レコンケート」(国土回復)の狙いは頓挫。さらに、ドゴール支持層を結集した「新共和国連合」(UNR)の直系政党「レピュブリカン」(共和主義者)の党首が、国民連合との連携を独断専行で宣言しスキャンダルに発展した。背後では、政商と呼ぶべき財界の有力者が動いている。「レピュブリカン」は国民連合に寄るか、あるいは中道と交渉するか――それはマクロンの命運も左右する。

 

「レコンケート」は、人種差別や女性蔑視を含む過激な言説で知られた『フィガロ』の記者エリック・ゼムール(65)が、2022年大統領選立候補を視野に入れてその前年に結成した。党名は、キリスト教徒がイスラム教徒からイベリア半島を奪還した国土回復運動「レコンキスタ」(フランス語はレコンケート)に由来する。マリーヌ・ルペン率いる右翼「国民連合」が近年、政権獲得を視野に穏健な経済社会政策を採用するようになり、カトリック強硬派や白人至上主義など元々のコアな支持層が宙に浮いたところを狙った試みだった。当初は大いに話題を呼び、「国民連合」に匹敵する支持を集めたものの、人気は長続きせず、大統領選でゼムールは7.07%にとどまった。

 マリーヌ・ルペンの姪であり、「国民連合」の前身「国民戦線」創始者ジャン=マリー・ルペンの孫にあたるマリオン・マレシャル=ルペンは、2012年に史上最年少の22歳で国民議会議員に当選した1。「国民戦線」の党政治局員に任命され、党に近いスタンスを取りながらも国民議会では無所属議員として1期活動したが、マリーヌとの関係が次第に悪化し、2017年総選挙には立候補せず一時政界から引退した。翌年、姓から「ルペン」を取ってマリオン・マレシャルと名乗るようになり、2022年大統領選ではゼムール陣営に参加し、レコンケート副党首に就任した。2024年欧州議会選では同党リストの筆頭となり、当選を果たした。

 彼女は高校生時代、当時の大統領ニコラ・サルコジに惹かれ、その政党「大衆運動連合」(UMP、現「レピュブリカン」)の青年組織に近づいたこともあり、右翼から右派にかけての幅広い結集の可能性に関心を抱いていたと思われる。マクロンの解散表明は、彼女にとってまたとないチャンスと映っただろう。

頓挫した「右翼連携」

 一夜明けた10日、マリーヌ・ルペンと「国民連合」党首ジョルダン・バルデラの双方が彼女と会談する予定だと、『フィガロ』が特報した。実際、その日の夕方に国民連合本部を訪ねたマリオンは、集まった報道陣を前に交渉が順調だと匂わせ、「歴史的な機会だ。結集する意志を確認し、いくつか提示された条件を受け取った」と述べた。他の右翼や右派の政党に結集を働きかける方針も示した。バルデラは「できるだけ広く結集する志を共有した。ただ、まだ対話の段階で何も決まっていない」と述べた。

 事態が一変したのは翌11日である。マリオンがXで声明を発表し、連携が失敗に終わったと報告した。

「昨日ルペンやバルデラと会い、合意の寸前まで行っていた。その立場を変更し、合意を拒否するとの連絡が、今日午後バルデラからあった。ゼムールとのいかなる協力も望んでいない、との残念な主張だった。フランスにとって大いなる失望だ」

 右翼連合は一夜にして頓挫したのである。

「国民連合」がなぜ手のひらを返したのか、謎は多いが、

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授、本誌特別編集委員 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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