[混迷フランス政治]左派左翼には選べぬ次期首相、焦点は唯一「中道・左派の連携」のみ

執筆者:国末憲人 2024年8月9日
エリア: ヨーロッパ
総選挙で新人民戦線の勝利が確定的になるや、すかさず記者会見を開いたメランション氏。だが彼は国民議会議員でも「不屈のフランス」の党首でもなく、もちろん新人民戦線の代表でもない[2024年7月7日、フランス・パリ](C)AFP=時事
与党連合との連携が奏功し、議会最大勢力となった左派左翼連合「新人民戦線」も早々に迷走を始めている。総選挙直前の欧州議会選挙で躍進した社会党は主導権を握れず、左派内での主導権奪還を狙う「不屈のフランス」のジャン=リュック・メランション氏のスタンドプレイは、外国メディアの報道にも少なからぬ影響を与えている。新人民戦線で浮上する次期首相候補はすぐさま内部対立で消えて行く。現在の左派の議論は事実上、左派と与党連合が連携し「不屈のフランス」を切り捨てるまでのポーズに過ぎないと見るべきではないか。[現地レポート]

 フランスで、右翼「国民連合」、左派左翼連合「新人民戦線」、大統領エマニュエル・マクロン(46)の与党連合「アンサンブル」の支持者は、それぞれどのような人たちなのだろうか。総選挙第1回投票の直前にあたる6月27日と28日、大手機関Ipsosなどが世論調査を実施し、これらの解明を試みた1。その結果には、少し意外な傾向も浮き彫りになっていた。

労働者はもはや左派左翼を支持しない

 まず、性別の支持傾向を見た場合、どの政党も男女比に大きな差は見られなかった。実は、そのこと自体がちょっとした驚きだと言える。こと国民連合に関しては、マッチョなイメージからか支持が男性に偏り、女性には不人気だったからである。しかし、今回の調査では、男性で最多となる36%の支持を得たのに対し、女性の支持も32%で、他の政党を上回った。

『ルモンド』によると、右翼への投票におけるジェンダーギャップは、2012年の大統領選以降消える傾向にあった。その理由として、国民連合を率いる前党首マリーヌ・ルペン(56)が女性であること、男女平等の理念を掲げていること、差別や偏見と結びつきがちだった党のイメージの正常化(dédiabolisation)にも努めてきたことなどが挙げられるという2

 年齢別に見ると、国民連合が各世代にわたって満遍なく支持を集めているのに対し、新人民戦線は18~24歳、25~34歳という若い層でいずれも最多の支持を得ており、逆に与党連合は70歳以上でトップに立っていた。

 注目すべきは、社会的環境と支持傾向との関連である。職種別だと、労働者はその57%が国民連合を支持しており、他の政党を圧倒している。かつて労働者の支持を集めた左派左翼である新人民戦線への支持は21%しかない。一方、管理職や中間職(教師、技術者等)の支持を最も多く集めるのは新人民戦線で、それぞれ34%、35%となっている。年金生活者は国民連合が31%、与党連合が29%と拮抗しているが、国民連合は年金貧困層が、与党連合は年金富裕層が、いずれも中心を占めている。

 つまり、左派や左翼はもはや、労働者には支持されていないのである。労働者票はむしろ右翼に流れており、左派左翼の主な支持層は都市インテリによって形成されている。

 この傾向は、学歴別の分布状況からもうかがえる。国民連合は高卒以下の49%の支持を集め、学歴が上がるほど支持が落ちるのに対し、新人民戦線は大卒以上で37%の支持を集め、学歴が下がるほど支持も落ちる。また、国民連合支持が人口2000人以下、1万人未満の自治体の住民で1位なのに対し、新人民戦線支持は人口20万人以上の街で最も強い。

 他の設問も合わせると、それぞれの支持層の典型例は次のような形である。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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