[混迷フランス政治]大躍進でも勝ち切れない右翼「国民連合」、その「革命っぽさ」の虚実(上)

執筆者:国末憲人 2024年8月8日
エリア: ヨーロッパ
マリーヌ・ルペンの言葉をそのまま繰り返すバルデラは、党内で「サイボーグ」と揶揄されたという[欧州議会本会議での討論に出席したバルデラ=2024年7月17日、フランス東部ストラスブール](C)AFP=時事
極右からの脱皮を狙う国民連合に対し、フランス国民は総選挙で大幅な議席増を許しつつも、一時は有力視された単独過半数は与えず失速させる複雑な評価を下してみせた。これを「極右の後退」と単純化はできないが、国民連合が体制内の道化役から体制そのものに成り代わるには、高いハードルがあることは示唆されていよう。「革命っぽい」非現実的な政策方針を連発する舞台裏では、組織としての貧弱さを隠すための試行錯誤が続いてきた。たとえば、若き党首ジョルダン・バルデラの「貧しく荒れた地域から政治の世界へ」というストーリーが、作り話だと指摘されているように。[現地レポート]

 フランスで、6月末から7月初めにかけて実施された総選挙の後の混乱が収まらない。大統領エマニュエル・マクロン(46)の与党連合「アンサンブル」、左派左翼連合「新人民戦線」、右翼「国民連合」のそれぞれが議席を3分し、多数派が形成できないのである。首相ガブリエル・アタル(35)が率いる選挙前の内閣は総辞職したものの、後任が決まらないまま、7月26日には五輪に突入した。欧州連合(EU)を牽引する立場にあるフランス政治の混迷は、ロシア・ウクライナ戦争への対応を含む欧州全体の外交や安全保障にも影響しかねない。

 この問題は何に起因するのか。総選挙の経緯も含めて振り返った。

28歳首相候補の故郷を訪ねる

 マクロンが国民議会(下院)の解散を表明し、選挙戦が始まったのは、6月9日に投開票があった欧州議会選で、国民連合の大躍進が確定した直後だった。

 国民連合は6月中、その勢いを維持し、国民議会で初の第一党となるとの予想が大勢を占めていた。果たして、議会の過半数を占めて絶対多数を獲得するか、第1党ながら過半数には及ばないか。選挙の焦点はそこに絞られた。

 過半数に至ると、マクロンは国民連合の党首ジョルダン・バルデラ(28)を首相に指名せざるを得ない。それ以外だと不信任決議を通されるからである。一方、半数に満たない場合には「首相は受けない」と、国民連合で独裁的な権力を振るう前党首マリーヌ・ルペン(56)は言明した。過半数かどうかは、フランス第5共和制初の右翼内閣が誕生するかどうかの分かれ目となったのである。

 フランスは、あらゆる選挙が2回投票制である。筆者がパリに到着したのは、その第1回投票を3日後に控えた6月27日だった。

 この旅の1つの目的は、日本で知られているとは言えないバルデラの人物像を探ることだった。国民連合が勝利を収め、彼が首相に就任する場合、フランス国外からも大きな注目を集めるだろう。右翼というだけでなく、まだ28歳である。果たしてその重責を担えるのか、その能力はどこから来たのか。ひとまず、彼の故郷を訪ねてみよう。

 バルデラはパリ北郊、戦前にナチス・ドイツのユダヤ人収容所が設けられた場所として知られる住宅都市ドランシーに、イタリア系移民家庭の一人っ子として生まれた。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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