[混迷フランス政治]大躍進でも勝ち切れない右翼「国民連合」、その「革命っぽさ」の虚実(下)

執筆者:国末憲人 2024年8月8日
エリア: ヨーロッパ
マリーヌ・ルペン氏を頂点とする国民連合の統制が揺らぐ気配はうかがえない[総選挙決選投票の翌日、国民連合本部に姿を現したルペン氏=2024年7月8日、フランス・パリ](C)EPA=時事
仮に国民連合が政権を手にしたら、実際のところ何をするのか。1972年に国民戦線として発足した当初、国民連合の党是は反ソ反共産主義だった。反移民が票になると発見したのは80年代。その後「EU離脱」やロシア支持なども掲げたが、世論の風向きが変わるとともに隠した主張も少なくない。国民連合に基本方針は存在するのか。あるとすれば、それは何か。「国民戦線」の元副党首、ブルーノ・ゴルニッシュ氏に聞いた。[現地レポート]

 

元副党首に会いに行く

 筆者が今回投宿したのは、パリ南部14区、モンパルナス駅南方の場末のホテルだった。周囲には、公式掲示板以外の街角にも、新人民戦線の選挙ポスターがべたべた貼られている。パリ市内では、比較的裕福で年齢層が高い西半分で中道の与党連合が、労働者層や移民が多い東半分で左派左翼の新人民戦線が、優位に立つ。14区はその境目にあたり、票の奪い合いが激しいことをうかがわせた。

 一方で、国民連合のポスターはほとんど見当たらない。フランス全土を席巻する国民連合にとって、パリ首都圏周辺はほぼ唯一浸透できていない地域であり、最初から捨ててかかってポスターも貼らずに済ませたのかもしれない。

パリの投票所前に立てられた選挙ポスターの公式掲示板(筆者撮影)

 6月30日の第1回投票は、その傾向を予想以上に鮮烈な形で示した。

 国民連合は、これに合流した右派「レピュブリカン」党首エリック・シオティ(58)の系列候補も含めて、全国でほぼ満遍なく得票を積み重ね、297選挙区で1位に立った。得票率は33.35%に達した。一方で新人民戦線も健闘し、28.28%を獲得した。与党連合も当初思われたほどぼろぼろではなく、21.79%だった。

 大統領選の場合には上位2人が決選に進出するが、総選挙の場合は12.5%を得票した候補が決選に進む。つまり、選挙区によっては三つ巴、あるいは四つ巴の決選もあり得えた。決選の結果は従って、国民連合の候補に対し、新人民戦線と与党連合との間での候補者調整がどこまで進むかに、左右されそうだった。

 国民連合は、依然として組閣への最短距離に位置している。彼らは内閣を握って何をするのだろう。真意を確かめたいと思ったが、バルデラやルペンの周囲は近年警備が厳しくなり、外国人研究者にとって集会や会見へのアクセスは難しい。第1回投票の結果を見終えた筆者は、彼らに代って国民連合の基本方針を語れる人物に会うべく、郊外電車に乗った。麦畑の間をしばらく走って着いた小さな駅で、ブルーノ・ゴルニッシュ(74)が待っていた。国民連合の前身「国民戦線」の元副党首である。

 ゴルニッシュは、初代党首ジャン=マリー・ルペンの側近として知られ、1999年には党ナンバー2の幹事長に就任し、2002年の大統領選を取り仕切ってルペンの決選進出を果たした。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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