2024年7月上旬、ある機会を得てイギリスの医療機関および政府の感染症対策に関わる各種の団体を訪問することができた。イギリスは新型コロナウイルス感染症に関する様々な疫学的解析や遺伝子解析を当初から積極的に実施し、それらによって得られた情報は諸外国に抜きんでていた。しかし、パンデミックが始まった当初、多くの感染者が出て、高齢者を中心に死者数も多く報告されていた。
そこで、実際にイギリスではどのような対応を取ったのか、特にロックダウンという感染対策は本当に有効だったのかなどについて、そのやりとりを含めて感じたことを報告したい。
イギリスでは何が起こっていたか
日本では法律上の建て付けにより、強制力を持って外出などを禁止するようなロックダウンは実施できない。しかし、英国をはじめ欧州各国の多くはロックダウンを実施した。当時の状況は日本でも報道され、人影が消えてまるでゴーストタウンになったかのような街中の風景が映し出された。テレビ局の特派員は、特別な許可がないと仕事に行けず、薬を受け取ったり生活必需品の買い物をする以外は、外出は許されないといった状況を説明していた。
当時、「イギリスは大変だな」という感想を持たれた方は多かったと思うが、それがどれほどの深刻さなのかは伝わらなかった。そこで、一般の市民はロックダウンの際にどう過ごしたのか聞いてみると、予想以上に厳しかったようである。
イギリスはこれまで3度のロックダウンを行ってきた(1回目は20年3月23日~5月上旬、2回目は20年11月5日~12月2日、3回目は21年1月上旬~夏)。最も厳しい対策がとられた時期には外出は必要最小限に抑えられ、警察官が街中で監視していて、外出の要件を満たしていない場合は逮捕されるケースも少なく無かったという。さらに人々にとって耐え難かったのは、葬儀への参列が制限され、家族が新型コロナで死亡しても満足に死者を見送れないことであった。
まさにイギリスの国民にとって、ロックダウンはトラウマになっていた。
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