ダイヤモンド・プリンセス号で感染拡大――医療チーム以外の人々の“フロントライン”(2020年2月4日~19日)

2020年2月初旬、中国での感染者は2万4000人を超え、急激に感染者が増えていた。死者数も累計500人近くとなり、中国武漢の医療現場などの混乱した状況が報道されていた。国内での感染確定例は20人を超えていたが、まだすぐに感染が拡大する状況ではなかった。しかし、大型客船のダイヤモンド・プリンセス号の乗客の中から感染者が出たというニュースが報じられると、横浜港に停泊した巨大な船の映像とともに連日マスコミでも大きく取り上げられ、多くの人々の注目を集めた。
この件についても過去のものとせず、これに対応した人々がどのような苦労に直面し、乗り越えてきたかを記録に残しておくことが重要だろう。災害派遣医療チーム「DMAT(ディーマット)」を中心とした活躍が『フロントライン』というタイトルで映画化され、2025年6月に公開予定だそうだ。映像を通して当時の医療チームなどの苦労が理解できるものと思われる。そこで本稿では医療チーム以外の人々に着目して、どのようなことがあったのか、その一部の記録を書き残しておきたい。
感染拡大の時系列
ダイヤモンド・プリンセス号は2004年に長崎で建造された全長290メートルの巨大な英国籍の客船で、乗客定員2706人、乗組員数1100人、その当時、日本で建造された最大の客船としてクルーズ旅行に就航していた。まず、感染拡大の時系列を記したい。
▼2020年1月20日――香港からの80歳の乗客が横浜でダイヤモンド・プリンセス号に乗船し、1月25日に症状が出た後、香港で下船した。2月1日、この乗客は香港で新型コロナウイルス陽性と判明し、乗船中の1月19日から咳などの症状を認めていたことがわかった。
▼2月3日、ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に戻り、日本当局が検疫を開始した。その時点で57カ国から、乗客2645人、船員1068人が乗船していた。検疫官が船内に入り、 全船員乗客の健康状態を確認しつつ、有症状者への検査が開始された。
▼2月4日、船内で最初に検査を実施した31人中10人の陽性例が確認された。その後も感染者数は続々と増加し、2月12日、同船の感染者は計174人(うち乗員20人)に達した。さらに、感染者のうち4人が重症となるとともに、同船の検疫を担当した検疫官も感染した。
▼2月16日、感染者は355人(うち重症者19人)。2月17日、感染者は454人に達した(ただし、このうち70人はこの時点で特に症状を認めなかった)。同日、米国人乗客ら328人がチャーター機2機で米国へ出国した(うち14人が感染)。
▼2月18日、感染者数は542人となった。
▼2月19日、乗客乗員の下船が開始され、443人が下船した。同日、検疫は終了となったが、3713人の乗客・乗員のうち船内での最終的な感染者数は712人(乗客567人、乗員145人)と約2割に達し、死亡者数は14人(致命率2.0%)で、その当時、中国国外における最大のクラスターとなった。
日本政府および厚生労働省の対応
2020年1月28日、加藤勝信厚労大臣(当時)が対策本部を設置。2月3日、船内検疫が開始された。
▼2月5日、船内から感染者が確認されたことを受け、政府は「水際対策」として船内で隔離する方針を正式に決定し、1

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