恐怖の増大――患者と病院への偏見と差別(2020年5月)

執筆者:松本哲哉 2024年5月13日
エリア: アジア
医療従事者への敬意と感謝を示すため航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が飛んだ[2020年5月29日、東京都世田谷区の自衛隊中央病院](C)時事
訪れた店やタクシーで移動した経路まで、マスコミがコロナ感染者を追う様子はまるで犯罪報道のようだった。社会全体が冷静さを欠いた。患者に対応する病院には冷たい視線が注がれており、当時、開院から2カ月が経った国際医療福祉大学成田病院も“コロナ病院”と呼ばれていたという。現場の雰囲気は日々悪化し、閉塞感に包まれていった。そんな中で救われたのは、やはり感謝の言葉だった。

 

敬遠される“コロナ病院”

 2020年5月のある日、国際医療福祉大学成田病院は毎日新型コロナウイルス感染症への対応が続き慌ただしい状況であった。私は朝、電車が遅れて遅刻しそうになり成田駅からタクシーに飛び乗った。運転手に「国際医療福祉大学成田病院に向かってください」と話すと、「あぁ、あのコロナの病院ですよね」と返事があった。「まだ1度も行ったことがないもので。でも場所はなんとなくわかります」と運転手は付け加えた。

カテゴリ: 医療・サイエンス
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
松本哲哉(まつもとてつや) 国際医療福祉大学医学部感染症学講座代表教授、国際医療福祉大学成田病院感染制御部部長 1987年長崎大学医学部を卒業後、同第二内科に入局。米国ハーバード大学留学後、東邦大学講師、東京医科大学主任教授を経て、2018年から現職。日本化学療法学会理事長、日本臨床微生物学会理事長、日本環境感染学会COVID-19対策委員長。日本感染症学会専門医・指導医。PMDA委員、AMEDプログラムスーパーバイザー、東京都iCDC専門家ボード感染制御チームリーダー等も兼務。主な著書に『新型コロナウイルス 「オミクロン株」完全対策BOOK』(宝島社、監修)、『福祉現場のための感染症対策入門』(中央法規出版、監修)、『これだけは知っておきたい日常診療で遭遇する耐性菌ESBL産生菌』(医薬ジャーナル社)、『介護スタッフのための 高齢者施設の感染対策』(ヴァンメディカル)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f