Weekly北朝鮮『労働新聞』
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内閣総理が金徳訓から朴泰成に交代、金正恩は在日朝鮮人の少年少女に接見(2024年12月22日~2025年1月4日)

執筆者:礒﨑敦仁 2025年1月6日
タグ: 北朝鮮 金正恩
エリア: アジア
北朝鮮を訪問した在日朝鮮人の学生少年芸術団は破格の待遇を受けた[党中央委員会本部の前で在日朝鮮人学生らに接見する金正恩国務委員長=2025年01月2日、北朝鮮・平壌](C)AFP=時事
年末に開催された朝鮮労働党中央委員会第8期第11回全員会議拡大会議では、内閣総理の交代を含む人事が決定された。年初の報道で注目すべきは、2日に金正恩が在日朝鮮人の学生少年芸術団に接見したことである。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】

 

2024年の総括と閣僚人事

 12月29日付は、朝鮮労働党中央委員会第8期第11回全員会議拡大会議が金正恩(キム・ジョンウン)総書記出席のもと23日から27日にかけて開催されたことについて報じた。議題は、①2024年度の党及び国家の政策執行状況総括と2025年度の闘争方向について、②党中央検査委員会の2024年度の事業状況について、③党の新たな地方発展政策と今後の課題について、④国の教育土台強化のための一連の措置を実施することについて、⑤2024年度の国家予算執行状況と2025年度の国家予算案について、⑥党内機構事業について、⑦組織問題(人事)であった。

 金正恩は、第一議題についての「結論」で対外関係にも言及した。

「米国は反共を変わることない国是としている最も反動的な国家的実体であり、米日韓同盟が侵略的な核軍事ブロックとして膨張し、大韓民国が米国の徹底的な反共前哨基地に転落した現実は、われわれがいかなる方向に行くべきであり、何をどのようにすべきかを明白に提示してくれている」

 そのうえで、「最強硬対米対応戦略」を強力に進める方針が示された。対外活動部門に対しては、「国威宣揚、国益守護の原則に基づいて主権的権利守護闘争を果敢に展開し、わが国家の尊厳と国益を尊重する親善的で友好的な国々との関係発展を積極的に図るための課題」を明示したという。

 また、軍人に「確たる対敵意識と絶対不変の主敵観、徹底した決戦意志」で武装させる思想活動が必要だとされたほか、「作戦指揮の情報化、現代化の実現」などによる戦争遂行能力の向上が訴えられた。

「加重される米国と追従勢力どもの反共和国軍事的挑発策動に対処し、国防科学技術の加速的な進歩と防衛産業の急進的な発展で自衛的戦争抑止力強化をさらに頼もしく担保することに対する戦略戦術的方針」を明らかにし、その実現のための諸課題を提示したというが、全体として具体的な表現に乏しいものとなった。1年前のように偵察衛星打ち上げ計画の公表なども一切なかった。

 人事の目玉は、朴泰成(パク・テソン)が政治局常務委員会委員に補選され、内閣総理に任命されたことである。2020年8月から内閣総理を務めてきた金徳訓(キム・ドックン)は党中央委員会書記・経済部長となった。金正官(キム・ジョングヮン)内閣副総理のほか、権成環(クォン・ソンファン)資源開発相、金永植(キム・ヨンシク)商業相の任命も公表された。最高人民会議の開催を待たず、党中央委員会で閣僚人事を任命するスタイルは定着した感がある。

 新たに党中央委員会政治局委員となったのは6人で、紹介順に、李永吉(リ・ヨンギル)朝鮮人民軍総参謀長、崔善姫(チェ・ソニ)外相、努光鉄(ノ・グァンチョル)国防相、金正官内閣副総理、李煕用(リ・ヒヨン)党中央委員会書記・幹部部長、崔東明(チェ・ドンミョン)党中央委員会書記・科学教育部長である。全体として大きめの人事であったが、内閣総理を除いてはサプライズがなく、狭いサークルの中で幹部を頻繁に入れ替えていると評することができよう。

 金正恩は、2025年が中央委員会の「任期最後の年」である旨を複数回口にしたため、2026年初めには党規約にもとづいて第9回党大会を開催するものと考えられる。

 大晦日の『労働新聞』は、29日に金正恩が葛麻(カルマ)海岸観光地区を視察したことについて詳しく報じた。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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