
アメリカ大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ前大統領の返り咲きが決まり、国際社会や地域情勢の様々な変化が予見されている。朝鮮半島情勢においても、北朝鮮の金正恩総書記が、現在の対決局面を転換させ、史上初の米朝首脳会談に応じたトランプ氏と再び米朝交渉に臨む可能性が注目されている。
トランプ氏は、2024年7月18日の候補指名受諾演説で米朝首脳会談について、「我々がまた会えば私は彼らとうまく付き合うだろう。彼(金正恩)はおそらく私に会いたがっているはずで、私を懐かしく思うはず」などと述べ1、金正恩総書記との関係に自信を示した。一方の北朝鮮は、トランプ氏の再登場をどのように見ているのであろうか。本稿では、前回2020年の大統領選挙キャンペーンで一時浮上したトランプ-金正恩の首脳会談開催説に対して論評した北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党中央委第一副部長(現在は副部長)の談話を題材に、トランプ氏に対する北朝鮮の基本的な認識を考察してみたい。同談話(以下「金与正談話」)の内容からは、トランプ第一次政権との交渉で北朝鮮が得た「教訓」が垣間見えるからである。
米国側の「時間稼ぎ」「パフォーマンス」への警戒感
2020年7月初め、再選を目指すトランプ大統領(当時)が、米メディアのインタビューで金正恩総書記との首脳会談再開の意欲を表明したこと2や、トランプ第一次政権で2019年まで国家安全保障担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン氏が、いわゆるオクトーバー・サプライズとして首脳会談が行われる可能性に言及したこと3を発端に、米朝首脳会談開催説が浮上した。これに対し、北朝鮮は、2020年7月10日付で「金与正談話」を出し4、「両首脳の判断と決心によって、どんなことが突然起こるかは誰も分からないこと」と含みを残しつつも、金与正氏の「個人的な考え」として、「米国がいくら願うとしても(首脳会談を)受け入れてはならない」として、首脳会談に否定的な立場を表明した。金正恩総書記の妹とされる金与正氏の名前で出された談話だけに、外部では、金正恩総書記の考えが反映されているものとの受け止めが広がった。
北朝鮮が米朝首脳会談開催説を牽制した理由の第一は、首脳会談が米国側の「時間稼ぎ」やトランプ氏の「パフォーマンス」に利用されることに対する警戒心であった。

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