北朝鮮がトランプ再登場に対して抱く「三つの警戒ポイント」

執筆者:瀬下政行 2025年1月14日
エリア: アジア 北米
北朝鮮は、トップ同士の個人的関係と核問題を区別する姿勢を強調している[第2回米朝首脳会談でのトランプ米大統領(当時)と金正恩国務委員長=2019年2月28日、ベトナム・ハノイ](C)AFP=時事
第一次政権で史上初の米朝首脳会談を行ったトランプ氏の大統領復帰は、北朝鮮にとって取引の可能性が再び訪れるという意味では好機だ。一方で、金正恩総書記や妹の金与正氏のこれまでの発言には、米国に対する警戒感や拒否感、不信感が滲む。トップ同士の個人的な親交が国家間の関係改善には繋がらなかったことから、第二次政権に対しても「トランプ」と「米国」を分けて捉える二分論で臨むことになるだろう。

 アメリカ大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ前大統領の返り咲きが決まり、国際社会や地域情勢の様々な変化が予見されている。朝鮮半島情勢においても、北朝鮮の金正恩総書記が、現在の対決局面を転換させ、史上初の米朝首脳会談に応じたトランプ氏と再び米朝交渉に臨む可能性が注目されている。

 トランプ氏は、2024年7月18日の候補指名受諾演説で米朝首脳会談について、「我々がまた会えば私は彼らとうまく付き合うだろう。彼(金正恩)はおそらく私に会いたがっているはずで、私を懐かしく思うはず」などと述べ1、金正恩総書記との関係に自信を示した。一方の北朝鮮は、トランプ氏の再登場をどのように見ているのであろうか。本稿では、前回2020年の大統領選挙キャンペーンで一時浮上したトランプ-金正恩の首脳会談開催説に対して論評した北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党中央委第一副部長(現在は副部長)の談話を題材に、トランプ氏に対する北朝鮮の基本的な認識を考察してみたい。同談話(以下「金与正談話」)の内容からは、トランプ第一次政権との交渉で北朝鮮が得た「教訓」が垣間見えるからである。

米国側の「時間稼ぎ」「パフォーマンス」への警戒感

 2020年7月初め、再選を目指すトランプ大統領(当時)が、米メディアのインタビューで金正恩総書記との首脳会談再開の意欲を表明したこと2や、トランプ第一次政権で2019年まで国家安全保障担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン氏が、いわゆるオクトーバー・サプライズとして首脳会談が行われる可能性に言及したこと3を発端に、米朝首脳会談開催説が浮上した。これに対し、北朝鮮は、2020年7月10日付で「金与正談話」を出し4、「両首脳の判断と決心によって、どんなことが突然起こるかは誰も分からないこと」と含みを残しつつも、金与正氏の「個人的な考え」として、「米国がいくら願うとしても(首脳会談を)受け入れてはならない」として、首脳会談に否定的な立場を表明した。金正恩総書記の妹とされる金与正氏の名前で出された談話だけに、外部では、金正恩総書記の考えが反映されているものとの受け止めが広がった。

 北朝鮮が米朝首脳会談開催説を牽制した理由の第一は、首脳会談が米国側の「時間稼ぎ」やトランプ氏の「パフォーマンス」に利用されることに対する警戒心であった。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
瀬下政行(せしたまさゆき) 公安調査庁のシニア・アナリスト。公安調査庁に調査官として入庁し、北東アジア情勢を中心に情報分析畑を歩む。『内外情勢の回顧と展望』の東アジア関連の編纂責任を担う。北朝鮮指導部の内在的論理の分析手法では定評がある。とりわけ、朝鮮労働党の公開資料を丹念に読み込み、路線転換の予兆を的確に察知するエキスパートとして各国の情報機関から信頼を集めるオシント専門家。著書に『公安調査庁秘録―日本列島に延びる中露朝の核の影』(共著、中央公論新社)がある。
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