「今週のトランプ」ラウンドアップ
「今週のトランプ」ラウンドアップ (8)

トランプ大統領の発言とアクション(5月1日~5月8日):相互関税発表から約1カ月、トランプ政権で初の貿易協定締結

執筆者:安田佐和子 2025年5月9日
エリア: 北米
英国との貿易協定の詳細については「今後数週間」かけて交渉するという[ホワイトハウスの大統領執務室で協定合意を発表したトランプ大統領(中央)ら=2025年5月8日、アメリカ・ワシントンDC](C)Bonnie Cash/Pool/Sipa USA
トランプ大統領と政権キーパーソンから飛び出した1週間分の発言を、ストリート・インサイツ代表取締役・安田佐和子氏がマーケットへの影響を中心に詳細解説。▼米英、中国の過剰生産に対抗する協力体制作りに着手▼日本はなぜ「一番乗り」を逃したか▼「マールアラーゴ合意」観測浮上で台湾は火消しも、燻るアジア通貨安是正▼中国は利下げでトランプを牽制?▼米財務省「為替報告書」が交渉のレバレッジにも

 

米英、中国の過剰生産に対抗する協力体制作りに着手

 5月8日は、世界の西と東でそれぞれ劇的な1日を迎えた。ロシアのモスクワでは、ウラジーミル・プーチン露大統領と中国の習近平国家主席が会談、両国間の連携強化を誇示した。米国のワシントンD.C.では、ドナルド・トランプ大統領が英国との貿易協定の合意を発表した。

 トランプ氏は、米英貿易協定を受けトゥルース・ソーシャルで「この合意は、米国を尊重し真剣な提案を持ち込む者には、米国が『ビジネスに開かれた国』であることを示すものだ」との見解を表明。その上で、4月2日に相互関税を発表した「解放の日」以来、「途方もない歴史的な日」と位置づけた。米英の貿易協定の主なポイントは、以下の通り【画像1】。

▼米英間

・鉄鋼・アルミニウムの貿易圏創設、医薬品サプライチェーン確保で協力

・医薬品は、両国間の対象外に

▼米国

・英国への一律関税、10%は維持(従来は3.4%)

・関税収入は60億ドルへ

・英国に対し、鉄鋼・アルミへの25%の関税を撤廃(キア・スターマー英首相の発言より)

・英国産の自動車への関税は27.5%(4月3日に発動した25%+従来の2.5%)→10%に引き下げ、英国が毎年米国へ輸出する最初の10万台の車に適用(24年の英国の米国向け自動車輸出台数は10.1万台)

・英ロールスロイスのエンジンと航空部品、関税なしで米国輸出が可能に(英国によるボーイング機購入に合わせ)

▼英国

・米国への関税率は従来の5.1%→1.8%へ引き下げ

・米国製エタノールの関税を撤廃

・ボーイングの航空機、100億ドル購入

・米国にとって約50億ドルの輸出増に

・米国産のエタノール、牛肉、シリアル、衣類、化学品、機械類などの市場アクセス拡大

【画像1:米英貿易協定、ホワイトハウス公表の資料
出所:Donald J. Trump/Truth Social 拡大画像表示

 今回の貿易協定は大枠であり、トランプ氏は協定の詳細について記者団に「今後数週間」かけて交渉する方針と述べた。従って、英国による米国産品の市場アクセス拡大の手法も、今後明らかになっていくだろう。その反面、スターマー英首相が述べた英国への鉄鋼・アルミへの25%関税を撤廃することと、ホワイトハウスが明記した貿易圏創設については、ある程度明確になっている。CNNによれば、今回の協定に基づき、英国は米国と共に外国産の鉄鋼とアルミニウムに25%の関税を課すと同時に、両国間で一連の金属に関する自由貿易圏を構築していく。世界の粗鋼生産の約50%が中国である事実を踏まえれば、中国の過剰生産に対抗するための協力体制作りに着手したと言える。

カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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執筆者プロフィール
安田佐和子(やすださわこ) ストリート・インサイツ代表取締役、経済アナリスト 世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事するかたわら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの上級主任/研究員を経て、株式会社ストリート・インサイツを設立。その他、トレーダムにて為替アンバサダー、計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員、日本貴金属マーケット協会のフェローを務める。
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