トランプの「グリーンランド併合」発言がもたらした揺らぎ(下):「現状維持は選択肢にない」中での新たな均衡点を求めて
デンマーク国家は持続可能か
新国王による2度目のグリーンランド訪問を経ても、前自治政府首相のイーエゼが文化的ジェノサイドと糾弾した、冷戦期デンマークによる強制避妊や強制移住、さらには200年を超える植民地支配に対する清算や補償の問題は、いまだ多くの領域で解決されていない(DR 2025)。そして、何よりも、3月11日のグリーンランド自治議会選に候補者を擁立した6つの政党のうち5党は、進度の違いこそあれ、デンマークからの独立を掲げている(高橋2025c)。「現状維持は選択肢にない」(Sermitsiaq 2025b)——トランプの第一声が飛び出した2024年のクリスマスから、3月11日の選挙戦にかけて、グリーンランドで繰り返し掲げられていたスローガンも、今改めて想起したい。この限りでは、4月の国王とニールセンのツーショット(あるいはフレデリクセンとニールセン、イーエゼのスリーショット)が、問題の解決を意味しているわけではないことは明らかである。
他方で、4月以降の結束と協力の強化を謳う動きの全てが政治的なポーズではないとすれば、両者にとって次の一手はどこに打たれるべきか、という問いが生まれてくる。換言すれば、何らかの変化——「現状維持は選択肢にない」——をもたらしつつ、デンマーク国家の存立——「結束と協力の強化」——を持続可能なものとしていく一手が仮にあるとすれば、それはより具体的に、いかなる選択肢を含むものとなるだろうか。
以下では、2025年6月時点におけるデンマーク国家内部の動静をふまえつつ、当地で主題化している二つの論点——すなわち①政府一括補助金の継続支給と②代表性=主体性の確保をめぐる論点——を取り上げ、それらの展開可能性を素描することで、国家のゆくえを展望する手がかりを得たい。もちろん、二点のみが重要であると主張するものではない。そうではなく、トランプ発言以降の時空において、この二つの論点を軸に「現状維持ではない何か」と、「デンマーク国家の結束と協力の強化」という二つの要請をいかにして両立させるかを思考し続けていくことが、デンマーク国家(仮にその未来があり得るとして)が自身の将来を構想する際の最低限の出発点となるだろう、ということを示すためである。
政府一括補助金はトランプによる露骨な「買収」と何が異なるのか
まずは、①政府一括補助金の継続支給についてである。
2025年4月のフレデリクセン・ニールセン・イーエゼの三者会談でアップデートが約束された2009年自治法——その第6条1項には、次の一文がある。
〈グリーンランド自治政府が2~4条に基づいて引き継ぐ事務分野は、その引き継ぎの時点から自治政府によって資金が賄われるものとする〉
これは、移管される責任分野の財源をグリーンランドが自己負担することを定めた条文である。同時に、グリーンランドが財政的自立の原則に則って自治を拡大していくことを示す(引き受ける)、自治法の根幹といえる規定でもある。
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