チャーリー・カーク氏射殺と「精神的善導者」のいないアメリカ

Foresight World Watcher's 7 Tips

国民を落ち着かせる役割を誰が果たすか[カーク氏が創設した「ターンニング・ポイントUSA」本部に献花のため集まった人々=2025年9月13日、アメリカ・アリゾナ州フェニックス](C)AFP=時事

 アメリカの保守活動家、チャーリー・カーク氏が西部ユタ州で講演中に射殺された事件が、米社会に新たな動揺を広げています。2012年に18歳で保守系政治団体「ターニング・ポイントUSA」を設立した同氏は、ラジオやSNS、講演活動を駆使して若者の支持を集め、これを850以上の大学に支部を持つ全米屈指の組織に拡大しました。

 その影響力をドナルド・トランプ氏の支持に注ぎ込むことで、第2次トランプ政権ではJ・D・バンス副大統領やピート・ヘグセス国防長官の登用にも関与したとされています。機能不全に陥った共和党組織に代わって、トランプ陣営の資金集めや集票にも大きく貢献したことが背景にあります。

 トランプ大統領は9月10日の事件直後から、原因は「暴力的な極左」にあるとの主張を繰り返しています。実際、拘束された容疑者が現場近くに残した薬莢には「hey fascist! CATCH!(おい、ファシスト! 受け取れ!)」と記されていたと報道され、トランプ大統領の主張が裏打ちされたかのように見えますが、実は別の薬莢には「If you read this, you are GAY Lmao(これを読んでいるならお前はゲイだ、笑)」とも刻まれており、事態はそう簡単に割り切れるものでもなさそうです。

 米オンラインメディア「ポリティコ」は、「今では、コアな支持層の怒りを結びつけて駆り立てるのに秀でていることが、いい政治家の一般的な定義となっている」との、ある識者の言葉を伝えています。そうであれば、選挙のたびに社会の分断が深まるはずで、民主主義の自壊は避けられません。怒りを利用する政治の危ういサイクルを誰が止めるか。これはアメリカだけに止まらない問題だと言えそうです。

 AUKUSの行方や活況を呈する日本のアート市場のレポートなども加え、フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事7本。皆様もよろしければご一緒に。

Charlie Kirk's death exposes absence of a leader to calm America【Adam Wren, Brakkton Booker/POLITICO/9月11日付】

「チャーリー・カークが暗殺された事件では、各政党の指導者たちから非難と悲しみの声が飛び交った。しかし、その喧噪の中に、人々を結束させるような政治指導者の冷静さを求める声はなかった。/これまで大統領や信仰指導者たちが担ってきたような、国民を落ち着かせる役割を果たす人材はいないようだ」
「『その役を果たす人物を私は探し求めているが、見つけられていない』。元インディアナ州選出下院議員のミッチ・ダニエルズはポリティコに語った。/現在の荒涼たる風景を評するのは、アメリカの政治がもっと上品だった時代の共和党員であるダニエルズだけではない」
「元大統領バラク・オバマの首席補佐官だったビル・デイリーは報道陣に、ドナルド・トランプ大統領が『それをやれる唯一の人だ。なぜなら彼はすべての国民を代表しているのだから』と述べた。/ネブラスカ州選出の非トランプ派共和党下院議員、ドン・ベーコンは報道陣に、大統領がこの挑戦に踏み出してくれることを期待していると述べつつ、『だが、彼はポピュリストであり、ポピュリストたちは怒りに固執するものだ』とも語る」

 米ユタ州で起きた親トランプの政治活動家の暗殺を受け、政治専門のオンラインメディア、米「ポリティコ」は「アメリカを鎮めるリーダーの不在を炙り出すチャーリー・カークの死」(9月11日付)を掲載した。

 執筆者は上級内政特派員のアダム・レンと内政特派員のブラックトン・ブッカー。彼らは記事で紹介するコメントの主たちと同様、分断と敵対に流れ、暴力さえ目立つようになってきた米国の政治状況をトランプが落ち着かせることを求めつつ、大統領以外の“政治的仲介者・精神的善導者”を見出そうと試みる。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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