中国「2億人のギグワーカー」からの警告
Foresight World Watcher's 3 Tips
インドネシアの首都ジャカルタを起点に8月末から9月上旬にかけて広がった大規模デモは、デモ隊と警察の衝突の中で警察車両がバイクタクシーの運転手をはねて死亡させたことが激化の一因だったとされます。現地で「オジェック」と呼ばれてきたバイクタクシーは近年、フードデリバリーや宅配などにも利用できる配車アプリサービスが大きな割合を占めています。そこでの労働者、いわゆるギグワーカー(インターネット上のプラットフォームを介して、単発・短期の仕事を請け負って働く人)の待遇改善は、抗議自体の中心的な要求でもありました。ギグワーカーの最低賃金水準や社会保障拡充、アプリ運営企業への規制を求める声が上がったのです。
ギグワーカーのデモやストライキは世界各地で頻発しています。今年4月にはブラジルの60以上の都市でデモが行われましたし、6月にはインドのラジャスタン州で約2万5000名のストライキがありました。昨年2月のバレンタインデーには、アメリカとイギリスでもストとデモがありました。
中国では、IT企業でリストラされた40代男性がフードデリバリーの配達員になり、家族の生活費捻出に奔走する映画「逆行人生(Upstream)」が昨年8月にされてヒットしたと伝えられます。未見ですが予告編はややコミカル。しかし、奥山要一郎氏のコラムによれば、やはりギグワーカーの厳しい生活実態を映しています(奥山氏は、コラム執筆時は東洋証券上海駐在員事務所所長、現在は浜銀総合研究所主任研究員)。この映画が公開されたのと同じ時期の杭州では、時間節約のためにフェンスを乗り越えた配達ドライバーが罰金を科せられ、そこから「尊厳を踏みにじられた」との反発が拡がる動きもありました。
ギグワーカーの増加は、一方では雇用流動化の結果でもあります。そして、雇用流動化はイノベーションや産業競争力の確保に欠かせない要素です。しかし社会保障の新たな制度設計や、あるいは「労働者の尊厳」のような価値・倫理の側面にも同時に対応することが、世界的な課題に浮上してきています。
中国と欧州、それぞれが裏表のような労働問題に関する2つの記事と、ウクライナへの侵攻の傍らでアフリカへの浸透も続けるロシアの動きを捉えた論考1本、フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事3本を皆様もよろしければご一緒に。
China's 200m gig workers are a warning for the world【Economist/9月18日付】
「世界最大の労働力が異常な変貌を続けている。中国では農村労働者と工業プロレタリアートに、ギグワーカーの一群が加わったのだ。今や何千万人という規模の人々が、つかの間の仕事を見つけるためにハイテク・プラットフォームを利用している。その数は合計で優に2億人に達し、これは都市部の労働人口の40%にあたる。これだけの人々が何らかのフレキシブルワークに依存している。こうした不安定な労働者は、多くが不動産を購入したり、公共サービスや福利厚生を利用したりするのに苦労しており、彼らの命運が今後何年にもわたって中国の経済と社会を形作ることになる」
英「エコノミスト」誌の「世界に警告を送る中国2億人のギグワーカー」(9月18日付)はこのように始まり、単発・短期の仕事をネットで探すギグワーカーたちの職種が、運転や配達などからさらに拡がっていることを紹介する。
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