イベリア半島の西端にある人口1000万の国、ポルトガル。歴史を紐解けば、もともとはスペインとともに、海路を通じてアメリカやアジアを席捲した海洋国家だ。欧州連合(EU)の発足(1993年)後も長らく経済の停滞が続き、直近では2010年代に債務危機に陥って、辛酸を舐めている。
そのポルトガル経済が、このところ好調を謳歌している。
コロナショック前の2019年を基準(=100)とする指数で測ると、直近2025年4-6月期のポルトガルの実質GDP(国内総生産)は110まで水準を上げている(図表1)。一方、ユーロ圏全体では106.6にとどまっている。ドイツやフランス、イタリアの景気が低迷しているためだが、それを隣国スペインと一緒に打ち返しているのがポルトガルだ。
ポルトガル経済の好調を支えているのは、北欧や西欧の高所得国からの観光客(インバウンド観光)による消費だ。これ自体はスペインと同様の構図だが、一方でポルトガル特有の強みとなる動きも出てきている。それは情報処理特需を反映したデータセンター産業の勃興だ。今後ポルトガルには、多くのデータセンターの建設が見込まれている。
生成AIなどに牽引され、世界は今、1990年代末のITバブル以来の情報処理特需に沸いている。その中でもカギを握るのが、大容量の情報を瞬時に処理・保存するデータセンターの存在だ。通信や建設、非鉄などのデータセンター関連株は、株価が世界的に急騰している。
実際のデータセンターの立地は、基本的に沿岸部に集中する。その理由は、データが海底ケーブルを通じて送受信されるからに他ならない。日本でも、人口が多い三大都市圏に近く、かつ沿岸部の都市にデータセンターを建設することが好まれる。この点に鑑みると、大西洋に面したポルトガルは、アメリカにもアフリカにも近いため、データセンターの建設にもってこいだ。
アイルランドよりも低い人件費も魅力
例えばグローバルなデータセンター運営企業であるエクイニクス社は、ポルトガルの首都リスボンに2つの巨大データセンターを稼働させている。大西洋ならびに地中海に面した諸国の通信需要の高まりに鑑みると、ポルトガルの立地が極めて魅力的だと同社は説明している。社会的な安定性も高く、また人的資源の水準が高いことも魅力的だという。
データセンター特需がポルトガルの経済を底上げするとの見方もある。コンサルティング会社であるコペンハーゲン・エコノミクスは2025年4月、データセンター特需の恩恵を受けて、ポルトガルの名目GDPが2030年から35年の間に260億ユーロ(約4.5兆円)拡大し、また5万人の雇用を創出するという楽観的な見方を示している。
こうした数字が妥当かどうかはさておき、確かに通信需要が引き続き堅調だと予想されることや、ポルトガルが欧州の西端に位置することを考慮に入れれば、ポルトガルにデータセンターが集積するシナリオは理に適っている。また安全保障の観点からも、欧州の中でロシアに最も遠いというポルトガルの立地は、結果的に大きなポテンシャルとなった。
ところで、同じく大西洋に面した国として、アイルランドがある。いわゆるGAFAMが拠点を設けているなど、欧州における「テックハブ」としての機能を果たすアイルランドだが、その一人当たり名目GNI(国民総所得)の高さ(2024年時点で7万5000ユーロ)が示すように、労働コストが高いため、投資家にとっての妙味は薄れつつある。
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