中国「抗日戦勝パレード」直前に英空母が来日した意味
2025年8月12日から9月2日にかけて、英空母打撃群(CSG25)の旗艦である空母「プリンス・オブ・ウェールズ」が日本に寄港した。これは、2025年4月から12月まで実施される英空母打撃群の地中海およびインド太平洋展開ミッション「ハイマスト作戦」の一環である。英空母打撃群の日本寄港は、2021年の空母「クイーン・エリザベス」を旗艦としたCSG21(空母打撃群21)に続き4年ぶりとなる。
日本寄港に先立ち、「プリンス・オブ・ウェールズ」は、西太平洋で、海上自衛隊、英海・空軍、米海軍・海兵隊、豪海軍、スペイン海軍、ノルウェー海軍の共同訓練に参加した。この訓練では、「プリンス・オブ・ウェールズ」に搭載されたF-35B戦闘機が、海上自衛隊の護衛艦「かが」に着艦する「クロスデッキ運用」が行われた。9月3日の対日戦勝記念日に向けて中ロが戦略的連携を強める中で、日英は軍種間の相互運用性の確認と防衛安全保障協力の深化を誇示したのである。
英国の対日防衛安全保障協力は、2010年の保守党政権発足に遡る。保守党政権は、後に「インド太平洋傾斜」と概念化されるアジア重視政策に着手した。その文脈で、2012年4月には日英共同首相声明「世界の繁栄と安全保障を先導する戦略的パートナーシップ」が署名され、以降、防衛安全保障協力が深化していった。CSG21の日本寄港はその成果の一つである。また、2022年12月には、日英伊戦闘機共同開発計画「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」の共同首脳声明が発表された。そして、2023年5月には、英国がCSG25のインド太平洋展開と日本寄港を公約するなど、日英「準同盟」関係は着実にレベルを高めていった。
2024年7月の総選挙で、保守党政権の敗北を受けて労働党政権が発足した。新政権は、保守党の対中姿勢を批判していたことから、当初はGCAPの見直しを含む「インド太平洋傾斜」政策の変更が報じられていた。しかし、実際には、2024年10月、保守党政権下で署名された「GCAP政府間機関(GIGO)設立条約」を批准した。さらに、2025年4月には、保守党政権が公約していたCSG25のインド太平洋展開を「ハイマスト作戦」として実行した。
8月28日には、東京で、CSG25の寄港に合わせて来日したジョン・ヒーリー英国防相と中谷元防衛相との日英防衛相会談が行われた。会談後には、初となる日英防衛相共同声明が発表され、今後の防衛協力の全体像が示された。これらの動きは、英国にとって日本との防衛安全保障協力が、超党派の不可逆的取り組みとなっていることを示唆している。
「防衛外交」において戦闘機が果たす役割とは
CSG25の日本寄港は、英国による「防衛外交」の実践である。防衛外交とは、軍事資産を活用して防衛当局が行う外交活動を指す。戦略的コミュニケーションの一形態であり、艦船の友好国への寄港はその典型的な事例だ。2021年のCSG21寄港時は新型コロナウィルス感染症が猖獗を極めており、「クイーン・エリザベス」の日本滞在期間は短く、一般公開も実施されなかった。
しかし、その後の2022年2月に勃発したロシア・ウクライナ戦争とそれに伴う中ロの連携強化は、日英両国に「欧州大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分である」という認識をより一層共有させた。こうした背景のもと、CSG25の日本寄港では、8月31日に「プリンス・オブ・ウェールズ」の一般公開が実施された。これは、両国の防衛安全保障協力の深化を、政府間だけでなく日本の市民レベルにも印象づけることを目的としている。
空母打撃群の寄港だけに注目すると、英国の対日防衛外交は海軍が主体であるかのような印象を受ける。しかし、日英間の防衛安全保障協力が始まった2012年以降、英海軍の日本寄港が本格化するのは2018年以降のことである。この間、英国の対日防衛外交を主導したのは空軍であった。
まず、2013年7月には、航空自衛隊第201飛行隊(千歳基地)と英空軍第3飛行隊(コニングスビー基地)が姉妹飛行隊関係を締結した。その後、2015年10月には、ソウルで開催された国際航空宇宙・防衛産業展示会(ADEX2015)に参加した英空軍のA400M輸送機が、日英の輸送部隊間の交流を目的として航空自衛隊美保基地に派遣された。これは、英空軍機が初めて航空自衛隊の基地に展開した事例となった。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。