戦後80周年、中ロ「歴史戦」に対峙する日本に必要な「欧州との連携」

執筆者:永田伸吾 2025年4月17日
タグ: 日本 自衛隊
エリア: アジア
2025年が明けると、中ロの戦略的連携強化の動きが具体化してきた[会談後の調印式でポーズをとるロシアのセルゲイ・ラブロフ外相(右)と中国の王毅外相=2025年4月1日、ロシア・モスクワ](C)EPA=時事
2025年は第2次世界大戦の終結と国連創設から80年の節目にあたり、中国とロシアは「対日歴史戦」で連携することが予想される。米トランプ政権の外交・安保政策に不透明感が拭えない中、日本にとって欧州諸国というパートナーの存在感はかつてなく高まっている。英仏独伊など欧州主要国の軍隊が日本に立ち寄る機会が増えている中、部隊間協力・円滑化協定(RAA)に代表される地位協定の早期締結は喫緊の課題だ。

 2022年12月に策定された「国家安全保障戦略」は、「我が国周辺に目を向ければ、我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」(3頁)と明記し、その主要な脅威の源泉を中国、北朝鮮、ロシアの安全保障動向に求めた。とりわけ「特に、近年は、我が国周辺での中露両国の艦艇による共同航行や爆撃機による共同飛行等の共同演習・訓練を継続的に実施するなど、軍事面での連携が強化されている」(10頁)とし、日本周辺海空域での軍事的連携を含む中ロの戦略的連携への懸念を露にした。

 中ロ連携の動きは年を追うごとに活発化し、2024年には、2019年に始まった戦略爆撃機による「共同空中戦略パトロール」は9回に達し、2021年に始まった艦艇による「共同海上パトロール」は5回に達した。さらに、同年9月には、中国人民解放軍北部戦区主催の中ロ海軍年次合同演習「北部・連合2024」が、ロシアが主催の大規模海軍演習「オケアン(大洋)2024」と連動して日本海で実施された。「オケアン演習」は冷戦期のソ連海軍が実施した海軍演習であり、とくに1970年の「オケアン70」と1975年の「オケアン75」は世界規模で実施され西側諸国に大きな衝撃を与えたことで知られる。このように、2024年までに、日本海を中心とした日本周辺海空域における中ロの軍事的連携は常態化した。

日本海にF-35Aを優先配備

 こうした事態に、日本も対応を急いでいる。防衛省は2023年11月に、2025年度から小松基地(石川県)に第5世代戦闘機F-35Aを配備する計画を明らかにした。このため、公約であった小松空港民営化を見据えた第2滑走路設置を防衛省に働きかけていた石川県の馳浩知事は、2024年3月29日の記者会見で防衛省が進める小松基地の機能強化を理由に設置計画の「検討中断」を発表した。そして、2025年3月18日に、防衛省は小松市に対し計画通り4月1日から3機のF-35Aを配備することを通達した。

 この3機は当初、既に39機のF-35Aが配備済みの三沢基地(青森県)に2024年度内に配備される予定であったが、F-35の最新バージョンであるブロック4の開発遅延と、それに伴うソフトウェア更新の遅れのため納入が遅れた。2025年1月24日の記者会見で中谷元防衛相はこの3機を「防空態勢の速やかな強化を図るために配備先を小松基地に変更する予定」であることを明らかにした。本来、三沢基地に配備される3機を回してまで計画通りに2025年から「日本海側唯一の戦闘機基地」である小松基地に配備することは、日本海を中心とした日本周辺海空域における中ロの軍事的連携の常態化への対応が待ったなしの段階にきていることを示唆している。

中ロ首脳は「5月と9月」に相手国訪問の見通し

 中ロは国交樹立75周年にあたる2024年10月に、対独・対日戦勝80周年にあたる翌2025年に連携をさらに進めることで一致した。まず、10月3日に、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が政府発行新聞『ロシースカヤ・ガゼータ』に寄稿した中ロ国交樹立75周年を祝う論文の中で、2025年が「ロシアと中国の長年の友好関係におけるもうひとつの重要な節目になると確信している」と述べた。さらに、10月中旬に北京を訪れたアンドレイ・ベロウソフ国防相は、張又侠国家中央軍事委員会副主席との会談で、2025年に向け実務的協力を強化すると述べた。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
永田伸吾(ながたしんご) 金沢大学大学院社会環境科学研究科博士後期課程修了(法学)。ウィリアム・アンド・メアリー大学訪問研究員、ケント州立大学訪問研究員、成蹊大学アジア太平洋研究センター客員研究員などを経て、現在、金沢大学人間社会研究域国際学系客員研究員。戦略研究学会大会委員会/編集委員会副委員長。専門分野は国際政治学・安全保障。最近の論文に、「英国の国際秩序観とそのアジア太平洋戦略:新型空母の展開に注目して」『問題と研究』第49号第3巻(2020年9月、単著)、“ASEAN and the BRI: The Utility of Equidistant Diplomacy with China and the US,” Asian Journal of Peacebuilding, Vol. 7, No. 2, 2019(共著)、「5カ国防衛取極(FPDA)とアジア太平洋の海洋安全保障:防衛装備・技術面での日英協力の視点から」『海洋安全保障情報季報』 第18号(2017年11月、単著)、『国際政治と進化政治学: 太平洋戦争から中台紛争まで』(2023年4月、共著)、『インド太平洋をめぐる国際関係:理論研究から地域・事例研究まで』(2024年1月、共著)などがある。
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