
2022年12月に策定された「国家安全保障戦略」は、「我が国周辺に目を向ければ、我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」(3頁)と明記し、その主要な脅威の源泉を中国、北朝鮮、ロシアの安全保障動向に求めた。とりわけ「特に、近年は、我が国周辺での中露両国の艦艇による共同航行や爆撃機による共同飛行等の共同演習・訓練を継続的に実施するなど、軍事面での連携が強化されている」(10頁)とし、日本周辺海空域での軍事的連携を含む中ロの戦略的連携への懸念を露にした。
中ロ連携の動きは年を追うごとに活発化し、2024年には、2019年に始まった戦略爆撃機による「共同空中戦略パトロール」は9回に達し、2021年に始まった艦艇による「共同海上パトロール」は5回に達した。さらに、同年9月には、中国人民解放軍北部戦区主催の中ロ海軍年次合同演習「北部・連合2024」が、ロシアが主催の大規模海軍演習「オケアン(大洋)2024」と連動して日本海で実施された。「オケアン演習」は冷戦期のソ連海軍が実施した海軍演習であり、とくに1970年の「オケアン70」と1975年の「オケアン75」は世界規模で実施され西側諸国に大きな衝撃を与えたことで知られる。このように、2024年までに、日本海を中心とした日本周辺海空域における中ロの軍事的連携は常態化した。
日本海にF-35Aを優先配備
こうした事態に、日本も対応を急いでいる。防衛省は2023年11月に、2025年度から小松基地(石川県)に第5世代戦闘機F-35Aを配備する計画を明らかにした。このため、公約であった小松空港民営化を見据えた第2滑走路設置を防衛省に働きかけていた石川県の馳浩知事は、2024年3月29日の記者会見で防衛省が進める小松基地の機能強化を理由に設置計画の「検討中断」を発表した。そして、2025年3月18日に、防衛省は小松市に対し計画通り4月1日から3機のF-35Aを配備することを通達した。
この3機は当初、既に39機のF-35Aが配備済みの三沢基地(青森県)に2024年度内に配備される予定であったが、F-35の最新バージョンであるブロック4の開発遅延と、それに伴うソフトウェア更新の遅れのため納入が遅れた。2025年1月24日の記者会見で中谷元防衛相はこの3機を「防空態勢の速やかな強化を図るために配備先を小松基地に変更する予定」であることを明らかにした。本来、三沢基地に配備される3機を回してまで計画通りに2025年から「日本海側唯一の戦闘機基地」である小松基地に配備することは、日本海を中心とした日本周辺海空域における中ロの軍事的連携の常態化への対応が待ったなしの段階にきていることを示唆している。
中ロ首脳は「5月と9月」に相手国訪問の見通し
中ロは国交樹立75周年にあたる2024年10月に、対独・対日戦勝80周年にあたる翌2025年に連携をさらに進めることで一致した。まず、10月3日に、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が政府発行新聞『ロシースカヤ・ガゼータ』に寄稿した中ロ国交樹立75周年を祝う論文の中で、2025年が「ロシアと中国の長年の友好関係におけるもうひとつの重要な節目になると確信している」と述べた。さらに、10月中旬に北京を訪れたアンドレイ・ベロウソフ国防相は、張又侠国家中央軍事委員会副主席との会談で、2025年に向け実務的協力を強化すると述べた。

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