トランプ大統領の発言とアクション(10月9日~15日):今回は中国が“先手”の米中対立、ビットコイン巨額空売りにも囁かれる中国の“戦略”
トランプの戦略をなぞった中国のレアアース輸出規制強化
「彼を知り己を知れば百戦殆からず」とは、孫子の兵法の教えとして、あまりにも有名だ。中国は第2次ドナルド・トランプ政権の戦略「相互確証型のいさかい=Mutual Assured Annoyance(MAA)」を学び(6月13日付本コラムをご参照)、APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議中に予定する米中首脳会談を前に米国に譲歩を迫るべく交渉カードを切った。
中国商務省は10月9日、レアアースの迂回輸出抑止を狙った輸出規制強化を発表した。翌10日には、中国に寄港する米国船から追加の港湾使用料を徴収すると決定(適用は14日から)。これは米国が中国船舶に対して取る同様の措置に対抗するもの。また、同じ10日には、米半導体大手クアルコムによるイスラエル企業買収に関して独占禁止法違反の疑いで調査に着手したと発表し、14日には韓国造船大手ハンファオーシャンの米国子会社5社に対し、中国との取引を禁じる制裁を科す方針も明らかにした。
トランプ氏も切り返し、通商関係の改善がなければ中国からの輸入の大部分を停止する考えを10月9日に示した。10日には、対中追加関税100%を11月1日から発動するとトゥルース・ソーシャルに投稿。14日には、中国からの食用油輸入停止の可能性にも言及した。
米中貿易摩擦が第3国の韓国にまで飛び火し、新たな局面に入ったかのようだ。ただ、これはチキンレースならぬ「TACOレース」再開と静観した方がよさそうだ。
米の「韓国ハンファ、食用油」、中国の「大豆」いずれもカードには弱い
TACOとは「Trump Always Chickens Out=トランプはいつも日和る」の略で、トランプ政権が交渉相手に圧力をかけたとしても、金融市場の急変を受けて軟化するという意味だ。実はそれは中国も同じで、対立が激化しそうな局面では中国も妥結点を見出してきた。5月の米中閣僚協議では双方が大幅関税引き下げで合意し、6月には中国がレアアース輸出規制の緩和を表明。9月は、TikTokの米国事業の売却が成立。米通商代表部(USTR)のジェミソン・グリア代表が10月14日に発言したように、米中間はそれぞれが歩み寄り、これまで問題を乗り越えてきた【チャート1】。
足元の対立の構図をみても、緊張がエスカレートしたとは言い難い。韓国ハンファ子会社への制裁をめぐっては、ロイターが韓国のアナリストの話を基に報じたように、影響は極めて限定的と想定される。米国ではジョーンズ法に基づき、米国の港から別の米国の港へ貨物を運ぶ船舶は米国で建造され、米国籍を持ち、米国人が所有・運航する必要があるためだ。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
