トランプ大統領の発言とアクション(10月30日~11月5日):「K字型経済」を映し出すNY市長選「民主社会主義者」の勝利
「人生で最も影響を受けた政治家」はバーニー・サンダース
「位置について、用意、スタート!」を英語にすると「On your mark, get set, go!」。11月5日、ニューヨーク・ポスト紙はゾーラン・マムダニ氏が当選確実となったニューヨーク市長選を「赤いリンゴ」と題して報じた。副題は「On your Marx, get set, Zo!」、民主社会主義者を自称するマムダニ氏をマルクス(Marx)に擬し、陸上競技のスタートコールもかけた言葉遊びだ。
NYP紙はマムダニ氏の政策について、選挙戦中から“共産主義的”と攻撃してきた。ドナルド・トランプ大統領と近いルパート・マードック名誉会長が率いるニューズコープ傘下のメディアらしく、報道姿勢は一貫して民主党に批判的である。
マムダニ氏は34歳、インド人の両親の間にウガンダで生まれたシーア派のイスラム教徒で、2018年にアメリカ国籍を取得した。NY市長としては1893年以降で最年少となるほか、南アジア系、アフリカ生まれ、イスラム教徒ということでも、初めて尽くしとなる。差し押さえ防止などを行う住宅支援カウンセラーや、NY州議会議員になる前は「ヤング・カルダモン」や「ミスター・カルダモン」の名義でラッパーとして活動した経験を持つ異色のキャリアでも知られる。高校の生徒会副会長選で演説代わりに得意のラップを披露し、その時は敗れたもののNY市長選ではラップで培われた語り口が有権者の心をつかんだ。若い世代はマムダニ氏のラップをネットで盛んに検索したという。
マムダニ氏は、比較的裕福なエリート家庭で育っている。母は映画『モンスーン・ウェディング』で、2001年にヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞した映画監督のミーラー・ナーイル氏。父はコロンビア大学の国際問題・人類学の著名な教授であり、2021年には英プロスペクト誌が「世界のトップ50思想家」に選出したマフムード・マムダニ氏だ。選挙戦中に結婚したマムダニ氏の妻、ラマ・ドゥワジ氏はインスタグラムで100万人以上のフォロワーを持つアーティスト。2人の出会いはマッチング・アプリの「Hinge」とあって、若者世代の共感を誘った。なお、スタンフォード大学の2017年の調査によれば、全米の夫婦のうち、出会いの39%がマッチング・アプリ経由でトップだった。
民主社会主義者としての活動に大きな影響を与えたのは、「人生で最も影響を受けた政治家」と呼ぶバーニー・サンダース上院議員だ。マムダニ氏は2017年に米国最大の社会主義組織である民主社会主義者協会(DSA)に参加している。DSAのウェブサイトによれば、「民主社会主義とは、職場や地域社会、そして社会全体において、普通の人々が真の声を持てる制度」だという。DSAは伝統的な政党とは異なり、分散型の草の根ネットワークとして運営され、全米各地に数百の「チャプター(地域活動グループ)」を持ち、労働運動から相互扶助プロジェクトまで幅広い政治活動を展開してきた。マムダニ氏の選挙戦略がテレビ広告ではなく、ソーシャル・ネットワーク(SNS)と戸別訪問を重視した草の根型キャンペーンで構成されていたのは、サンダース氏への傾倒と、DSAの方針に沿うものだ。
増加する若年層のローン延滞
NY市長選は、マムダニ氏とトランプ氏の批判の応酬も注目され、有権者の投票数は1969年以来初めて、200万人を超えた。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
