ウクライナ讃歌
ウクライナ讃歌 (26)

第5部 再起する日常(4) 戦いの中の復興

執筆者:国末憲人 2026年2月23日
タグ: ウクライナ
エリア: ヨーロッパ
日本の援助で建てられたキーウ北西にあるオゼラ村の住宅。ほぼ完成している(筆者撮影)
ロシアによる全面侵攻から丸4年が経過した。停戦・和平への道筋が見えない中でも、“日常”がそこにあるなら復興の取り組みは続いてゆく。復興にかかる費用は、今後10年で80兆円以上とみられる。復興庁第一副長官のミコラ・ボイコらを訪ねた。最優先の課題の一つである住宅不足への対応では、建設やローンの分野で日本の支援が重要な役割を果たしていた。【現地レポート】

 多くの戦争は、ひとまず戦闘が終わった後で復興が本格化する。国土が広く、戦争の終結が見通せないウクライナの場合、停戦を待っていては人々の生活が持たない。前線で戦い、ミサイルやドローンの攻撃を受けると同時に、社会とインフラの再建にも取り組まざるを得ないのが実態である。

 その現状を垣間見た。

復興には今後10年で5000億ドル以上

 ウクライナ政府と世界銀行、欧州連合(EU)、国連が2025年2月に公表した報告「第4次被害・ニーズ調査」(RDNA4)1は、全面侵攻当初から2024年12月までの3年弱の間にウクライナが直接受けた被害額を1760億ドル(約27兆円)と算定した。特に、全体の13%にあたる住宅が破壊され、250万世帯以上の家庭に影響を与えた。教育施設の被害は全体の10%に及び、学齢期の子どもの20%にあたる74万1000人が避難所不足のためオンラインを含むハイブリッド授業を受けている。インフラを破壊されたことによって、850万人が飲料水を得られていない。

 復興にかかる費用は今後10年で5240億ドル(約81兆円)近くが見込まれる。気の遠くなる金額だが、ロシアによる賠償が見込まれない現在、日本を含む各国の支援を受けながら、少しずつ再建に取り組むしかない。

 同報告は、2025年の優先的な復興に費やす費用を173億2000万(約2.7兆円)ドルと想定した。全体のごく一部に過ぎないものの、戦争と同時に復興に取り組む姿勢がそこに表れている。

 ウクライナ政府の政策を主導する復興庁に、第一副長官のミコラ・ボイコ(43)を訪ねた。

 2024年11月にこの職に就く以前、ボイコはキーウ州第一行政副長官として、首都を取り巻く農村地域の復興の指揮を執っていた。ブチャ、イルピン、ボロジャンカなど、全面侵攻の2022年2月から3月にかけてロシア軍に占領され、多大な被害を被った地区である。

「この地域で復興作業を始めたのは、(ロシア軍撤退が確認された)2022年4月2日でした。水道もガスも電気もない状態からの出発でした。学校も、病院も、橋も、つくり直さなければならなかったのです」

復興庁第一副長官のミコラ・ボイコは大の日本文化ファン。執務室にはサムライ像や日本刀も(筆者撮影)

 ボイコによると、キーウ州だけで建物被害は3万軒に及んだ。2025年秋までに2万軒以上の再建が終わったが、そのうちの約1万5000軒前後はウクライナ以外からの支援を得たことで可能になったという。

 現在はウクライナ全土の復興のコーディネートを担当する立場にあるが、その業務を進めるうえではキーウ州での経験が大いに生かされているという。

「各地の自治体や州も、地元のニーズを把握し、ドナーを自ら探すなど、力を尽くしています。だからこそ、復興はこれまで比較的順調に進んできました」

「戦争は依然として続いていますが、経済活動を活性化させ、雇用を安定させないと、国の経済が立ちいきません。国外の企業にももっと進出してほしい。そのために免税制度を設けたり、産業団地を用意したりの準備を重ねています」

 最も切実な分野は何か。

「(ロシア軍の標的となりがちな)エネルギー関連のインフラの再建はもちろんですが、それ以外で最も大きな課題は住宅ですね。避難民が多く、基本的に足らないのです」

 ボイコはこう説明した。

 各国政府機関や国際機関、企業、NGOなどのドナー側の方針と、復興を進めたい地元のニーズとを、うまく結びつけるのがボイコたちの任務である。

「例えば、国連児童基金(UNICEF)は教育機関への支援を望むなど、ドナー側からの希望や条件は少なくありません。一方で、私たちのニーズも多岐にわたります。だから、レストランでメニューを見せるように『どれになさいますか』とドナーに支援先を選んでもらうのです。UNICEFの支援では、イルピンで破壊された学校を紹介し、支援をしてもらうことができました」

「ドナーは自らの支援が現場に届いているかを気にしますので、事業の透明性確保に力を入れています。『供与したはずの機材がなくなった』などといったトラブルがこれまで一度もないのは誇りです」

 日本からの支援はどう受け止められているだろうか。全面侵攻以降2025年12月までの日本からのウクライナ支援総額は、ドイツのキール世界経済研究所の集計によると105.4億ユーロ(約1兆9000億円)で、二国間支援総額としては世界で10番目にあたる2。その中で地雷除去支援が大きな比重を締めているほか、国際協力機構(JICA)を通じた発電機の供与や、瓦礫を処理する重機の提供、またこれらに伴う技術サポートも大いに助かっているという。

「復興に関する大きな問題の1つは、実は人手不足です。作業員が決定的に足りません。その点で、様々な作業の省力化を進めてきた日本には、多くを学ぶことができます。私たちも人海戦術ではなく、日本のように機械を使いこなしつつ、復興を進めていきたいと思います」

 ボイコによると、環境問題への配慮が行き届いているのも、日本の支援の特徴だという。

パイロット・プロジェクト

 日本が地雷除去を得意とするように、国によって支援の得手不得手がある。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授、本誌特別編集委員 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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