AIは政府に服従すべきか――ハメネイ殺害とアンソロピックからの問い

執筆者:杉田弘毅 2026年3月11日
タグ: AI
エリア: グローバル
中国共産党が最高のAI能力を持ち、民主主義陣営を凌駕して世界を掌握することを、アンソロピックのアモデイCEOは最大の脅威に位置付けている(C)AFP=時事
斬首作戦はタカ派が唱えるほど簡単ではない――との常識は時代遅れになったようだ。AIをはじめ先端テクノロジーの力を借り、周囲のアドバイスを経ずに戦争を始めるトランプは、いまや無敵の大統領とも呼べそうだ。国際規範を侵食し、自国民も危険に晒しかねない判断を、テクノロジーが加速する。アンソロピックのダリル・アモデイと米政府との対立は、この危うい構図を露わにしている。

 年明けのベネズエラ急襲作戦に続く2月末のイラン攻撃は、戦争が新しいフェーズの時代に入ったことを見せつけた。短時間でのベネズエラ大統領ニコラス・マドゥロの拘束と攻撃初日のイラン最高指導者アリ・ハメネイの殺害である。かつて、いわゆる斬首作戦は困難とされた。それを続けざまに「成功」させた米国の軍事能力の高さには目を見張らざるを得ない。AIをはじめ先端技術の動員が過去の戦争とは比べものにならない鋭利な軍事力をもたらしている現実を浮き彫りにした。

 米大統領ドナルド・トランプはハメネイ殺害を発表する中で「我々の情報と高度に洗練された追跡システムから逃れられなかった」と誇った。イスラエルはテヘランの交通カメラをハッキングし、ハメネイらの行動を詳細に把握していた。最新テクノロジーを駆使したこの追跡システムこそが斬首作戦を可能とした。ハメネイは追跡を恐れて携帯電話も使わなかったという。それでも殺害されたのだから、米国やイスラエルと対立する指導者らは「隠れることはもはやできない」と恐れおののいているだろう。

 トランプがハメネイを殺害しなければならない理由は乏しい。米国防情報局(DIA)は、イランが核兵器開発を追求するとしても運用可能なICBM(大陸間弾道弾)を保有するのは「2035年まで」と見ているし、米国に対する攻撃やテロを計画している兆候もない。昨年6月の攻撃で核をはじめイランの能力はかなり破壊された。ゆえに理由を強いてあげるとすれば、先端技術を使えば斬首はできるという自信であろう。ベネズエラのニコラス・マドゥロ拘束でそれは証明された。トランプはこれで良くも悪くも歴史に名前を残せる。

 AIに代表される先端テクノロジーの力を借りて、熟慮や周囲のアドバイスを経ずに禁断の戦争を始めてしまうトランプは無敵の大統領とも言える。もはや誰もこの大統領を止められない。そんな印象を抱かざるを得ない。

アンソロピックが拒否した「集団監視」と「完全自律兵器」への利用

 しかし、イラン攻撃に酔うトランプに対してAI企業がどこまで米軍の戦争を助けるのか、という問題が生々しく提起されていることに注目したい。AI開発の雄であるアンソロピックCEOのダリオ・アモデイが安全と倫理を基本に据えて戦争への全面協力を拒否し、安全保障のために民間企業が協力するのは当然だとするトランプと対立した。

カテゴリ: テック 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
杉田弘毅(すぎたひろき) ジャーナリスト・明治大学特任教授。1957年生まれ。一橋大学を卒業後、共同通信社でテヘラン支局長、ワシントン特派員、ワシントン支局長、論説委員長などを経て現在客員論説委員。多彩な言論活動で国際報道の質を高めたとして、2021年度日本記者クラブ賞受賞。BS朝日「日曜スクープ」アンカー兼務。安倍ジャーナリスト・フェローシップ選考委員、国際新聞編集者協会理事などを歴任。著書に『検証 非核の選択』(岩波書店)、『アメリカはなぜ変われるのか』(ちくま新書)、『入門 トランプ政権』(共同通信社)、『「ポスト・グローバル時代」の地政学』(新潮選書)、『アメリカの制裁外交』(岩波新書)『国際報道を問いなおす』(ちくま新書)など。
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