年明けのベネズエラ急襲作戦に続く2月末のイラン攻撃は、戦争が新しいフェーズの時代に入ったことを見せつけた。短時間でのベネズエラ大統領ニコラス・マドゥロの拘束と攻撃初日のイラン最高指導者アリ・ハメネイの殺害である。かつて、いわゆる斬首作戦は困難とされた。それを続けざまに「成功」させた米国の軍事能力の高さには目を見張らざるを得ない。AIをはじめ先端技術の動員が過去の戦争とは比べものにならない鋭利な軍事力をもたらしている現実を浮き彫りにした。
米大統領ドナルド・トランプはハメネイ殺害を発表する中で「我々の情報と高度に洗練された追跡システムから逃れられなかった」と誇った。イスラエルはテヘランの交通カメラをハッキングし、ハメネイらの行動を詳細に把握していた。最新テクノロジーを駆使したこの追跡システムこそが斬首作戦を可能とした。ハメネイは追跡を恐れて携帯電話も使わなかったという。それでも殺害されたのだから、米国やイスラエルと対立する指導者らは「隠れることはもはやできない」と恐れおののいているだろう。
トランプがハメネイを殺害しなければならない理由は乏しい。米国防情報局(DIA)は、イランが核兵器開発を追求するとしても運用可能なICBM(大陸間弾道弾)を保有するのは「2035年まで」と見ているし、米国に対する攻撃やテロを計画している兆候もない。昨年6月の攻撃で核をはじめイランの能力はかなり破壊された。ゆえに理由を強いてあげるとすれば、先端技術を使えば斬首はできるという自信であろう。ベネズエラのニコラス・マドゥロ拘束でそれは証明された。トランプはこれで良くも悪くも歴史に名前を残せる。
AIに代表される先端テクノロジーの力を借りて、熟慮や周囲のアドバイスを経ずに禁断の戦争を始めてしまうトランプは無敵の大統領とも言える。もはや誰もこの大統領を止められない。そんな印象を抱かざるを得ない。
アンソロピックが拒否した「集団監視」と「完全自律兵器」への利用
しかし、イラン攻撃に酔うトランプに対してAI企業がどこまで米軍の戦争を助けるのか、という問題が生々しく提起されていることに注目したい。AI開発の雄であるアンソロピックCEOのダリオ・アモデイが安全と倫理を基本に据えて戦争への全面協力を拒否し、安全保障のために民間企業が協力するのは当然だとするトランプと対立した。
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