インド「第三極」としてのAI外交戦略――「インドAIインパクト・サミット2026」レポート

執筆者:石井順也 2026年3月27日
エリア: アジア
インドの強みは自国の膨大なデータと多様な社会課題への対応にある[インドAIインパクト・サミットでスピーチするモディ首相=2026年2月19日、インド・ニューデリー](C)AFP=時事
インドがAI技術を自国のコントロール下に置く「ソブリンAI」追求の動きを加速している。だがその狙いは、米中の覇権争いに割って入ることではない。デジタル技術で低所得層を経済活動に包摂してきたインドは、AI活用もその延長線上に位置づけている。技術基盤は米国と共有され、中国依存を避ける外交方針とも整合的だ。インドが開発を進める低コストの多言語モデルが成功すれば、グローバルサウスでもAI利用が広まるだろう。このインドのAI戦略と外交は、AI中堅国・日本にも重要な示唆を与えている。

 2026年2月16日から21日にかけて、インド・ニューデリーで「インドAIインパクト・サミット」が開催された。本サミットは、世界のリーダーやAI関係者が集う重要な国際イベントであり、2023年の英国(ブレッチリー・パーク)、2024年の韓国(ソウル)、2025年のフランス(パリ)に続く4回目の開催となる。2027年にはスイス・ジュネーブでの開催が予定されているが、高市早苗首相は今回のサミットに寄せたビデオメッセージで、日本開催への意欲を表明した。

 政府首脳級ではフランスのエマニュエル・マクロン大統領やブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領が出席し、産業界からはアルファベットのスンダー・ピチャイCEO、OpenAIのサム・アルトマンCEO、アンソロピックのダリオ・アモデイCEOら、錚々たる顔ぶれが集結した。日本からはSakana AIの伊藤錬共同創業者が参加した。筆者も現地で展示を視察し、各国からの参加者と意見交換を行った。

 今回のサミットは、グローバルサウスで開催される初の大規模AI国際会議であり、米中二大国以外の国々がいかなる存在感を発揮できるかが注目された。主催国インドは、米中とは異なる「第三極」としての独自の道を示し、日本や欧州など米中に次ぐAI中堅国にとっても示唆に富む成果を残したように思われる。以下では、現地の雰囲気も交えつつ、そのポイントを解説する。

国家的イベントとしての演出

 モディ政権は今回のAIサミットを、APEC(アジア太平洋経済協力会議)やG20に匹敵する国家規模のイベントへと押し上げた。エリート層の会合にとどめるのではなく、25万人以上の参加者を巻き込む国民的行事として演出したのである。当初は5日間の予定だったが、市民からの大きな反響を受けて6日間へと延長され、最終的な来場者数は延べ60万人に達したという。

 デリーの空港に降り立つと、ナレンドラ・モディ首相の肖像を掲げたサミットのバナーがすぐに目に入った。市内でも同様の広告を至る所で見かけ、テレビをつければ連日サミット関連の報道が流れていた。このような国威発揚的な光景は、2023年のG20サミットを彷彿させるものであった。インドが世界のAI秩序を主導する姿勢を対外的に示すと同時に、国内においてもAI政策への国民的支持を高める狙いがあったとみられる。

 モディ首相は、米国のテックリーダーたちと肩を並べ、AIガバナンスの議題を設定できる世界的指導者としてのイメージを強く打ち出した。米国や中国を含む92の国・機関が共同宣言に署名し、国際的な合意形成能力を示した点でも、外交的に大きな成果を収めたといえるだろう。

モディ政権はこのAIサミットを「国民的行事」として演出した(筆者撮影)

AIで低所得層まで包摂

 サミットにおいてモディ首相は、「Sarvajan Hitaya, Sarvajan Sukhaya(すべての人の福祉と幸福のために)」というテーマを掲げた。これは、AI技術の恩恵が特定の先進国や巨大テック企業、一部のエリート層に偏るのではなく、新興国や低所得層を含め社会全体に広く行き渡らせようとする政権の志向を反映するものだった。

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執筆者プロフィール
石井順也(いしいじゅんや) 国際情勢・地政学ビジネスアナリスト、Sakana AI 防衛・インテリジェンス担当 外務省、クリフォード・チャンス法律事務所、アンダーソン・毛利・友常法律事務所、住友商事グローバルリサーチを経て、国際情勢・地政学ビジネスメディア「オデッセイ」を創業。Sakana AIで国際政治経済の分析・防衛インテリジェンスを担当。東京大学法学部卒、スタンフォード大学院修了(国際政治経済学修士)。
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