「失望」に転じたオバマの中南米外交

支持率低迷に悩む米オバマ政権。協調姿勢で臨んだ対中南米外交も、思うように進んでいない。「建設的な関与」は実現するのか。

 オバマ政権の中南米外交は当初、前政権の単独主義から多国間協調主義への鮮やかな政策転換を印象づけ、大きな期待をもって迎えられた。昨年四月の米州サミットでオバマ大統領は、「未来志向で対等なパートナーシップの構築」を謳い、上々の中南米外交デビューを果たした。続く六月の米州機構総会では、四十七年間続いた社会主義キューバの資格停止を解除する決議に米政府は同意する歴史的決断を下す。同月末に起きたホンジュラスでの軍事クーデターでは、米州機構から暫定政権を追放するなど、中南米と一体となって、米州の民主主義防衛体制に忠実にコミットする姿勢をみせた。だが発足一年が経過し、オバマ政権の「建設的な関与」政策は、中南米諸国の失望をかっている。
 最大の原因はホンジュラス問題への対応だ。当初、クーデターが「米州民主憲章違反」であるとして、正統なセラヤ大統領の政権復帰を即時無条件で他の諸国と一致して求めるまではよかったが、予想外の暫定政権の抵抗にあい腰砕けとなった。本来なら援助停止やビザ発給停止に止まらず、経済制裁の強化によってセラヤ復帰が求められたところだ。セラヤ派に対する人権侵害も発生しており、米政府が制裁に指導力を発揮すれば、その方向で問題が解決される可能性は高かった。それは、オバマ政権の多国間協調外交のコミットを確かめる上で、ベネズエラ・チャベス政権など反米左派政権が求めた踏み絵でもあった。

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
遅野井茂雄(おそのいしげお) 筑波大学名誉教授。1952年松本市生れ。東京外国語大学卒。筑波大学大学院修士課程修了後、アジア経済研究所入所。ペルー問題研究所客員研究員、在ペルー日本国大使館1等書記官、アジア経済研究所主任調査研究員、南山大学教授を経て、2003年より筑波大学大学院教授、人文社会系長、2018年4月より現職。専門はラテンアメリカ政治・国際関係。主著に『試練のフジモリ大統領―現代ペルー危機をどう捉えるか』(日本放送出版協会、共著)、『現代ペルーとフジモリ政権 (アジアを見る眼)』(アジア経済研究所)、『ラテンアメリカ世界を生きる』(新評論、共著)、『21世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像』(アジア経済研究所、編著)、『現代アンデス諸国の政治変動』(明石書店、共著)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top