「スピンマイスター」河村たかし氏

執筆者:春名幹男 2011年2月7日

 愛知の「トリプル選」で完勝した河村たかし氏。インテリジェンスの立場から見れば、その戦い方は「心理戦争」(PSYWAR)とも、「プロパガンダ」とも言える。
テレビニュースからも、なかなか知能的な戦いぶりが伺える。「10%の減税。こんなこと2年前から同じことばかり言うとるんだが・・・」という言い方も面白い。同じことばかり繰り返すとウソ臭いと思われてしまう。だから、野党側が反対しているから2年前と同じことを言っている、と批判して疑念を払拭するのだ。
だけど、10%の恒久減税で一体どんな改革をするのか――といった具体的な質問が出るかもしれない。だから、減税は市民革命の起爆剤、といった言い方をして具体論を先送りにし、具体的政策に関する質問を抑える。
実際、彼は市役所幹部らと詰めた政策の議論はあまりしていないという話を聞いた。
今の民主主義、選挙で圧勝すればオールマイティに近い。だから、オウム真理教だって一時候補者を立てた。沖縄の選挙で、米中央情報局(CIA)は何度か金を出した。ナチスだって、実は選挙で勝って政権を奪取した。
このような世論操作の達人を、米国の選挙コンサルタントたちは「スピンマイスター」と呼ぶ。日本では小泉純一郎元首相が最高のスピンマイスターと思っていたが、今や各地でその種の政治家が出没している。地方で厄介なことになって人気が落ちる前に、中央政界に進出すれば、何とかなるかもしれない。
日本国民は全く意識していないが、日本も、司法に至るまでポピュリズム化している。裁判員制度で、検察側が強いのは、ソフトな語り口の女性検事を動員し、パワーポイントで分かりやすく説明するからだ。「個人商店」の弁護側にはそんな余裕はなく、対等に戦えない。古今東西、メディアもポピュリズムに弱く、批判しようとしないのだ。

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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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