才覚もなく無責任な人間が国家のトップに立つことは、けっして珍しいことではない。古代にも、愚かな王が何人も出現していた。たとえば5世紀末の第25代武烈天皇は、あまりの暴虐ぶりに、「大(はなは)だ悪(あ)しくまします天皇なり」と民衆に罵られている。
ただしこの暴君、実在したかどうか、はっきりとしない。次に即位した継体天皇の存在を美化するために、『日本書紀』編者がわざわざ「悪い王」を登場させたのではないか、と疑われている。
それよりも、興味深い王の話をしよう。日本ではなく朝鮮半島の出来事だ。百済国最後の王・豊璋(ほうしょう、余豊)で、なぜかこの人物、日本の現首相に、どことなく似ている。
7世紀の百済は日本の軍事力をあてにしていたから、同盟関係を強化するために、王子・豊璋を人質として差し出していた。来日したのは、舒明3年(631)のことだ。ただし、こののち百済は徐々に国力を落とし、唐に攻められ滅亡してしまう。そこで百済の名将・鬼室福信(きしつふくしん)は、日本から豊璋を呼びもどし、王に立て、国家再興の狼煙を上げたのである。

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