福島県の原発被災地を出た後の取材は、ひたすらがれきの荒野を行く孤独な旅だった。仙台、石巻から釜石まで、目を疑うようなすさまじい光景が続く。 ひしゃげた鉄骨や看板が折り重なる。その中におびただしいごみや家具、材木、そして壊れた車。パトカーや消防車の残骸まである。ヘッドライトを真下にして倒立した自家用車というものを初めて見た。住宅やビルなど建物の多くは、流されてきたこれらのがれきが衝突して破壊されたという。次々とがれきががれきを作ったらしい。 津波は河口から川をさかのぼり、枝分かれした細い支流にまで押し寄せて、山間のけわしい斜面に漁船を打ち上げていた。つぶれて屋根だけになった民家。その上にマイクロバスが乗っかっている。 つい数時間前には、一家そろって幸せな朝餉の食卓を囲んでいたに違いないその場所から、人間と家と家財と人々の暮らしが根こそぎ奪い去られていた。「根こそぎ」とはこういう状態を言うむごい言葉だと知った。襲われた人々は、どんなに恐ろしい思いをしたことか。身体の中心が凍り付くような寒々とした光景。 がれきの町や村に共通するのは重い静寂だ。海では潮が騒ぎ鳥は鳴いていたのだろうが、静寂だけが記憶に残っているのは、これらの被災の現場で何日間も人の話し声を全く聞かなかったからだろう。 どんな過疎地であろうと、住む人の声さえあれば空気は暖かい。人間の暮らしこそがこの世の証し――やがて始まる復興を前に、がれきの山は当たり前のことを改めて強く訴えていた。
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