インテリジェンスの立場から、大王製紙やオリンパスの「企業統治」問題だけでなく、朝日新聞の情報評価と、読売新聞の危機管理問題についても考えてみたい。
19日、朝日新聞の情報判断には首をかしげた。オリンパスの損失隠し事件に関する報道だが、正確に言えば、提携紙の興味深い記事を転電・掲載しなかったのである。
土曜日発売19-20日付のインターナショナル・ヘラルド・トリビューン(IHT)紙(ニューヨーク・タイムズ紙国際版)は1面左肩に東京発で「オリンパス捜査、『ギャングランド』との関係に注視」というNYT紙の特ダネを掲載した。
それによると、オリンパスが2000~09年に行った疑問のある支払いは4810億円だが、帳簿記載があるのは1050億円だけで、残額3760億円については会計帳簿への記載がなかった。この未記載額のうち半分以上が「山口組を含む犯罪組織シンジケート」に流れたと捜査当局はみている、というのだ。
証券取引等監視委員会、東京地検、警視庁の合同会議で配布されたという「メモ」を基にまとめたこの記事はNYT東京支局の日本人女性記者Hiroko Tabuchi(田淵広子)の鮮やかなスクープである。メモは「捜査に近い筋から入手した」という。この記事は18日午後、共同通信が転電、19日付朝刊用に加盟・契約社に送信している。
朝日新聞には、提携関係にあるNYTからもこの記事が入電していたはずだが、全く報道しなかった。そもそもオリンパスの「損失隠し」自体、姉妹誌の「週刊朝日」のスクープだったが、記者会見後に初めて報道した。そして今度は、NYT記事も使わなかった。日本の読者はNYTに載った重要な情報を知らせてもらえなかった、ということになる。
その理由はともかく、英紙フィナンシャル・タイムズも同様に暴力団絡みの記事を掲載しており、日本国民が知らないまま、国際的に「日本の大手企業と暴力団の関係」が注目され、米英を中心に報道が拡大する可能性が十分あるのだ。
他方、読売巨人軍の親会社、読売新聞グループは18日の臨時取締役会で、清武英利球団代表兼GMの解任を承認した。読売新聞としては、当然の処分と考えているだろう。
確かに、これまでに一般市民や有識者らが示した反応だと、清武氏と渡辺恒雄会長の双方を批判する意見が多かったようだ。しかし、清武氏が解任されたら、次は渡辺会長だけが矢面に立たされる番になる可能性もある。
こうした人気スポーツの人気チームをめぐる問題では、「国民がどう受け止めるか」を第一に考えるべきだが、解任決定に当たっても、ファンは不在だったようだ。
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