政治をゼロから考える (2)

党議拘束は何のためにあるのか

執筆者:宇野重規 2012年7月27日
エリア: アジア

質問 「党議拘束とは何ですか。必要なのでしょうか?」


 党議拘束とは、議会で採決するにあたって、政党がその所属議員に党の方針通りに投票するよう拘束をかけることです。逆にいえば、もし拘束をかけなかったら、議員がバラバラの行動をとりかねないということであり、それくらい、党の内部でも議論が分かれているときに使われる手法だといえるでしょう。
 最近、党議拘束があらためて話題になっています。民主党を離党した小沢一郎代表率いる新党「国民の生活が第一」は、党のルールとして、党議拘束を設けないことを決めています。小沢氏が新党設立にあたって、いの一番にこのことを決めたあたりに、今回の離党騒動の原因もありそうです。
 税と社会保障の一体改革をめぐる採決においては、民主党内では、野田佳彦首相や前原誠司政調会長の口からさかんに「党議拘束」という言葉が飛び出しました。もし、党の方針に違反したならば、重大な処分が待っていると反対派の議員を牽制したわけです。実際、離党して新党を結成した議員には、もっとも重い除名処分を行ないました(党内に残った議員は、党員活動が大きく制約されるものの、党には残れる党員資格停止処分にとどめたわけですが)。
 党の執行部としては、政権の死活をにぎるこの法案を何が何でも成立させたかったのは当然です。党として決定したことに、党員は従ってもらわないと困るというわけです。とはいえ、造反した議員にすれば、前回の選挙のマニフェストでは主張していなかった消費増税について、党議拘束をかけられるおぼえはないというところでしょう。
 新党発足にあたっての発言をみる限り、小沢氏は、議員の一人ひとりが国民の負託を受けて選ばれている以上、それぞれの議員が自らの信念に従って行動すべきだといいたいようです。
 とはいえ、この党議拘束という問題の背景には、そもそも政党をどのようなものとして考えるかという、より深刻なテーマが隠されています。そのあたりまで踏まえて考えないことには、今回の騒ぎについても本質的な理解は難しいかもしれません。実をいうならば、党議拘束のあり方次第で、政党のあり方はまったく違ってくるのです。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
宇野重規(うのしげき) 1967年生れ。1996年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。東京大学社会科学研究所教授。専攻は政治思想史、政治哲学。著書に『政治哲学へ―現代フランスとの対話』(東京大学出版会、渋沢・クローデル賞ルイ・ヴィトン特別賞)、『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社、サントリー学芸賞)、『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波新書)、共編著に『希望学[1]』『希望学[4]』(ともに東京大学出版会)などがある。
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