原発再稼働の判断を担うのは、総理か原子力規制委員会か?

執筆者:原英史 2012年9月25日
エリア: 日本

 

 原子力規制委員会が9月19日に発足した。
 田中俊一・前原子力委員長代理はじめ委員候補について、野党のみならず民主党内からも「原子力ムラの住人」などと異論が噴出。結局、国会同意人事は得られないまま、国会閉会中の例外規定を使っての任命となった。
 
 ところが、発足した途端、早くも迷走状態だ。
 今後の原発再稼働の判断を誰が担うのかについて、
・田中俊一委員長は、規制委員会の役割は科学技術的判断にとどまり、再稼働の最終判断は政治の責任、との立場を示しているのに対し、
・野田総理は、「原子力規制委員会が主導的役割を果たす」、「政治が介入して何かを言うと独立性を損なってしまう」と発言(9月21日記者会見)して、これを否定。
 両者の発言が食い違い、発足早々、責任の所在不明な状態が露呈した格好になっている。
 
 両者の食い違いは、結論から言うと、制度上、田中委員長の言っていることの方が正しい。
 原子力規制委員会は、もともと、政府が環境省の一部局として「原子力規制庁」を提案したのに対し、自民・公明両党が、より政治からの独立性の強い「原子力規制委員会」を対案として提示。与野党協議を経て、後者が成立したものだった。
 野田総理の「政治が介入して・・・」という発言は、一見この経過を尊重したものと思われるかもしれないが、実は、「独立性」の意味を根本的にはき違えている。
 
 原子力規制委員会設置法では、
・原子力規制委員会は、科学技術的な知見をもって、安全性の判断などを担うこととされ、
・その業務に関する限り、強い独立性が認められる。
 つまり、本来、科学技術的に判断すべき事項について、政治から口を出されることはない。
 一方で、科学技術的な判断ではなく、政治判断に関する事項は、原子力規制委員会の役割ではなく、総理以下の政治家が担う。
 
 これは、従来の原子力行政で、「科学技術的判断」と「政治判断」の区分があいまいだったことへの反省に基づいている。区分があいまいならば、安全性を脅かす政治介入などが起きかねないからだ。
だから、両者を明確に区分し、それぞれの独立性を確保する・・・というのが、原子力規制委員会の設計思想の根幹だった。
 
再稼働の判断がどちらにあたるかというと、前提のひとつとして、安全性の判断、すなわち「科学技術的判断」が含まれるものの、最終的には「政治判断」の領域だ。
というのは、そもそも原発が停止していること自体、科学技術的に安全性を検証した結果ではなく、政治判断による行政指導に基づく。政治判断で停止した以上、停止の解除も、当然、政治判断にならざるを得ない。
 
現に、大飯原発の再稼働の判断は、政治判断とされた。安全性に加え、「計画停電や電力料金の大幅な高騰といった日常生活への悪影響をできるだけ避ける」といった観点も考えての判断だったと、総理自身が説明している(6月8日野田総理記者会見)。
 
 さらに、野田総理は、閣議決定を見送ったとはいえ、「2030年に原発ゼロ」という方針を政治判断として打ち出している。是非をここでは論じないが、もしこれを目指すのであれば、論理的帰結として、稼働するか否かは、単に「科学技術的に安全が確認できれば、動かしてよい」ということではなくなるはずだ(例えば、安全であっても段階的に停止するといったことが出てくるのが普通だろう)。
 
 以上のように、再稼働の判断は「政治判断」の領域だ。
 念のため補足しておくと、「政治判断」に先だって、安全性の判断がある。ここは、「科学技術的判断」の領域であり、原子力規制委員会が独立して結論を出す。
 その上で、最終的に再稼働するかどうかは、「政治判断」ということだ。
 
 しかるに、野田総理の発言をみると、再稼働するか否かの判断について、「政治が介入すべきでない」と言っているようだ。つまり、原子力規制委員会に「政治判断」を求めていることになる。
 
 これは、おかしい。民主党政権でたびたび繰り返された「政治が責任をとるべきことを、官僚や専門家に押し付ける」という事象のひとつとも捉えられようが、問題はそこにとどまらない。
 こうして「政治判断」と「科学技術的判断」をごっちゃにし続けていたのでは、原子力安全行政は建て直せない。
 これでは、原子力規制委員会を作った意味がない。
 
(原 英史)
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執筆者プロフィール
原英史 1966(昭和41)年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問などを務める。著書に『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』、『官僚のレトリック』など。
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