不倫だけでは辞めないCIA長官

執筆者:春名幹男 2012年11月13日
エリア: 北米

 デービッド・ペトレアス米中央情報局(CIA)長官(60)の9日の突然の辞任発表。
 さすが、政治とセックスがいつもの話題のワシントン。報道陣が活気付いた。
 だが、そもそもスパイの不倫などニュースにもならない。CIA工作員の不倫話は山ほどある。CIA東京支局でも頻繁に聞いたが、それだけで辞任という話はあまりないのだ。
 一番有名なのは、1950年代アイゼンハワー大統領のCIA長官を務めたアレン・ダレス氏の愛人、コケティッシュな女スパイ、メアリー・バンクロフトさんのストーリーかもしれない。70年代の激動期、CIAの外国首脳暗殺計画などの文書を公開したウィリアム・コルビー長官は離婚して若い女と再婚した。
 ソ連国家保安委員会(KGB)はCIA工作員がセックスに弱いことをよく知っていて、ハニートラップ要員をワシントンに派遣していたようだ。ソ連崩壊後、CIAは初めて女性の民間人偽装工作員(NOC)をモスクワに派遣したところ、ロシア連邦保安局(FSB)要員と恋に落ちてしまった。さらに別の女性NOCも同じような形で行方不明になった、という話をインテリジェンスに詳しいジャーナリスト、ジェフ・スタイン氏が紹介している。
 イラク戦争中、あるCIAバグダッド支局長は、やたら女性の部下を性の相手にして問題になったが、辞任はしなかった。
 軍規では不倫は許されない。軍人であれば、辞めざるを得なくなったかもしれない。しかし、ペトレアス氏はイラク駐留米軍司令官、中央軍司令官などをへて軍籍を離脱、昨年文民としてCIA長官に就任した。不倫だけでは辞任の理由にならない。疑問はそれだけではない。
 まずは辞任の政治的タイミングだ。なぜ、オバマ大統領が再選された6日の大統領選当日に本人に不倫問題が通知されたのか。選挙への悪影響を懸念したのではないか。
 不倫相手ともう一人の女性とは一体どんな関係だったのか。
 「違法性はない」と報道されているが、本当か。何か隠された事実があって、辞任したのではないか。
 そんな疑問が噴出、大手各紙はベテラン記者を動員して集中的に取材したというわけだ。これから次々と出てくるはずのスクープに期待したい。(春名幹男)
 

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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