オバマの言葉@エルサレム

執筆者:池内恵 2013年3月22日
エリア: 中東 北米

 オバマ大統領は21日夕方にエルサレムで演説を行った。訪問の初日はネタニヤフ首相との会談とその後の記者会見で、イスラエルへの強固な支持を重ねて確認し、二日目の昼はヨルダン川西岸を訪れてパレスチナ自治政府のアッバース大統領と会見し、二国家解決への支持を再確認した。その上で、エルサレムに戻ってきて国際会議場で行った演説は、イスラエルの「若者」に向けて、「未来」のための決断を促すものだった。

 「アラブの春」に触発されたのか、あるいはニューヨークなどのデモの影響を受けたのか、イスラエルでも若者を中心のデモが2011年夏に生じている。今年1月22日に投票が行われた国会(クネセット)選挙でも、新党「未来がある(Yesh Atid)」が若手世代の支持を受けて19議席を獲得し第二党に躍進した。「未来がある」は3月18日に発足した連立政権に加わり、党首のヤイル・ラピード(Yair Lapid)が財務相ポストを得た。オバマのイスラエル演説もこの若者層に向けられたものだった。ネタニヤフ首相をはじめとした現在のイスラエルの政治指導部との組織だったやり取りでは二国間関係の現状維持を図るに留め、最も注目される演説ではもっぱら次世代に向けて語りかけ、将来の変化へ希望を託すというところが、今回の訪問でオバマ政権が打ち出した新機軸だろう。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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