首相演説と外相演説の不思議な不整合

執筆者:田中明彦 2007年3月号
タグ: 日本 アメリカ
エリア: アジア

 一年前のこのコラムで、国際問題を観察するために一年に一つだけ文書を読むとしたら、アメリカ大統領の一般教書演説を読むべきであると述べた。今年は日本について考えてみたい。日本では演説の伝統がアメリカほどはっきりしていないので、それほど強くはいえないにしても、筆者は、やはり首相の施政方針演説がそれにあたると考えてきた。日本について、一年に一つだけ文書を読むとしたら、毎年一月に行なわれる首相の施政方針演説を読むべきなのだと思ってきた。 しかし、日本全体についてというわけでなく、日本外交についてと限定したとしたらどうか。必ずしも首相の施政方針演説ということにならないかもしれない。日本では、財政演説などと並んで、外相の行なう外交演説があるからである。施政方針演説が、外交も含む国政全般に触れているのに対して、外交演説は、日本外交に絞って日本の方針を語ることになっている。そうだとすれば、日本外交に関心のある人は、外交演説を読む方がよいということになるのだろう。とはいえ、施政方針演説が外交の基本を示し、外交演説がそれをより深く掘り下げていると考えれば、同じ内閣なのだからどちらを読んでも大差はないといえるかもしれない。そう思っていた。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
田中明彦(たなかあきひこ) 1954年、埼玉県生まれ。東京大学教養学部卒業。マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了(Ph.D. 政治学)。東京大学東洋文化研究所教授、東京大学副学長、国際協力機構(JICA)理事長、政策研究大学院大学学長、三極委員会アジア太平洋地域議長などを経て、2022年4月より再び国際協力機構(JICA)理事長に就任。著書に『新しい「中世」―21世紀の世界システム』(サントリー学芸賞受賞)、『ワード・ポリティクス―グローバリゼーションの中の日本外交』(読売・吉野作造賞)、『アジアのなかの日本』、『ポスト・クライシスの世界―新多極時代を動かすパワー原理』など。
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