中東―危機の震源を読む
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千年河清を俟つごときイラクの現状と曙光
二〇〇七年に入って以来、中東を観察することを生業にしている人間にとってはいわば「凪」の状態が続いている。「中東情勢異状なし」――と一行で終わらせてしまいたくなることもある。もちろんこれはレマルクの小説『西部戦線異状なし』をもじった表現である。そして、前線では陰惨な死の光景が現出されているにもかかわらず、個々の死の持つ政治的な意味が弱まり、殺戮の合間に不思議な休息の瞬間が訪れる、という点でもレマルクの小説とイラクの状況は似通ってきている。一回のテロで数十人の死者がでることが、政治的にはほとんど意味を持たなくなり、ニュースとしても平凡な扱いしかなされなくなって久しい。

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