饗宴外交の舞台裏 (58)

極めて異例だった日朝首脳会談のプロトコール

執筆者:西川恵 2002年11月号
エリア: アジア

 書家で文明的観点から発言を行なっている石川九楊氏は、日朝首脳会談をテレビで仔細に見た。 小泉、金正日の両首脳が握手を交わしたとき、手を握り合ったのはほんの短い一瞬で、二人がすぐにぎごちなく手を離したことを石川氏は見逃さなかった。「あれではダメですね。せっかくの歴史的会談の出会いが気合もなく、帳消しになってしまった」。 もう一つ氏が指摘するのは、金正日総書記が「朝早くから平壌にお越しいただいて、うれしいというよりもホストとして申し訳ないと思います」と異例の挨拶をしたことに、小泉首相が黙ってうなずいたことだ。「あそこで首相が軽妙に受けとめて、寸鉄人を刺す言葉で切り返していたら、首相は大器を備えた政治指導者としての評価が定着しただろう」。会談に入る前、拉致された十一人のうち八人が死亡していると知らされたショックが尾を引いていたのだろうが、「危急にあっても大局観を失わないのが政治指導者」と氏は言う。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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