「人道裁判」で火がついたベルギーとイスラエルの対立

執筆者:大野ゆり子 2003年4月号
エリア: ヨーロッパ 中東

[ブリュッセル発]湾岸戦争下、イラクからミサイル攻撃を受けた経験を持つイスラエルで、有事に備えた訓練が日常化した二月中旬、この日だけイラクを忘れたかのように、「ある国」を敵視する報道がメディアに溢れた。非難の矛先はベルギー。ベルギー最高裁判所が、一九八〇年代にレバノンで起きたパレスチナ難民虐殺事件で、シャロン現首相(事件当時は国防相)を含む、数人のイスラエル軍関係者の戦争責任を問う裁判で、ベルギー司法の管轄権を認めたことに対する反発である。 ベルギーでは世界で唯一、人権に対する罪については、犯罪の発生地が地球のどこであっても司法管轄権を持つという法律が九三年に下院を通過している。今回の司法判断によると、シャロン首相は現役中は裁判を免責されるものの、引退後は「戦争犯罪」「人道に対する罪」を犯した被告として、ベルギー法廷に召喚されることが、同国の法律上は可能になる。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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