作曲家グスタフ・マーラーの妻アルマは、恋多き女であった。ウィーンの芸術家の家に生まれ育ち、優れた芸術的感性と美貌に恵まれた彼女は、十九歳も年上だったマーラーの死後、バウハウスの創始者である建築家のグロピウス、その後、作家のフランツ・ヴェルフェルと生涯に三回結婚する。「音楽」「建築」「文学」という芸術の三分野の天才を夫に持つだけでも珍しいことのはずなのに、彼女が親しく交際した相手はそれだけに収まらない。画家のクリムト、作家のホフマンスタール、シュニッツラー、作曲家のベルク、シェーンベルク、劇作家のハウプトマン――。マーラーの死後に若き未亡人のアルマと激しい恋に落ち、後に失恋した画家のココシュカなど、一年もかけて彼女にそっくりな等身大の人形を作らせ、それをモデルに作品を描くことで、心の痛手を埋めようとした程である。

「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
フォーサイト会員の方はここからログイン