夏が来るたびに苦い記憶が蘇る。十年前の夏、三十八年も続いた自民党単独政権が崩壊し、細川護熙政権が誕生した。日常、政治の世界に「青い鳥」のような話があるはずがない、と思っていたが、このときばかりは、年がいもなく興奮したものだ。その一年二カ月ほど前、細川が単身、新党旗揚げを宣言したころから、世の中には明るい期待感の混じったいわゆる“風”が吹き始めていた。 東京の、たしか乃木坂だったと思う。新党旗揚げにいたく感動した「蠅」子は、細川の事務所に押し掛け、決して広いとは言えぬ事務所で、細川と向かい合った。小太り、メガネ、脂ぎった顔に大声、といういわゆる政治家の印象とはまるで違う、穏やかで、品がよさそうな人物が目の前にいた。「これが五摂家の一つ近衛の血を引く、そして細川家十八代当主か」とまぶしい思いで面長の顔を見つめた。人間みな平等という民主主義の時代でも、「世が世ならとてもこうして対峙することは叶わなかった」という思いを消し去ることはできない。
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