言うは易く行なうは難き「価値観外交」

執筆者:田中明彦 2007年7月号
エリア: アジア

 外交と価値を結びつける発言が増えている。安倍首相みずから、価値観を共有する国々との関係を重視する外交を語り、麻生外相も「価値の外交」とか「自由と繁栄の弧」を論じている。最近では、「価値観外交」に関する議員の会合もできたという。 もちろん、是非善悪のみならず、損得もまた人の価値観に依存するのであるから、いかなる外交も価値の外交である。金正日もサダム・フセインも、中国もみなそれぞれの価値観にもとづいて外交を行なっている。 しかし、今の日本で、外交に価値を結びつけて議論するとき、そこで「価値」といわれているものは、どうも「人類普遍の価値」とみなされるような価値のことをいっているようである。「自由・民主・人権・法の支配」などが、しばしば言及されるからである。

カテゴリ: 軍事・防衛
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
田中明彦(たなかあきひこ) 1954年、埼玉県生まれ。東京大学教養学部卒業。マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了(Ph.D. 政治学)。東京大学東洋文化研究所教授、東京大学副学長、国際協力機構(JICA)理事長、政策研究大学院大学学長、三極委員会アジア太平洋地域議長などを経て、2022年4月より再び国際協力機構(JICA)理事長に就任。著書に『新しい「中世」―21世紀の世界システム』(サントリー学芸賞受賞)、『ワード・ポリティクス―グローバリゼーションの中の日本外交』(読売・吉野作造賞)、『アジアのなかの日本』、『ポスト・クライシスの世界―新多極時代を動かすパワー原理』など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f