一喜一憂するなかれ:年金運用「5兆円損失」議論にモノ申す

執筆者:磯山友幸 2016年7月6日
タグ: 安倍晋三 日本
エリア: アジア
7月1日付の朝日新聞1面トップ

「年金の運用損、昨年度5兆円超 GPIF公表は参院選後」――。朝日新聞は7月1日付1面トップで、株価下落による GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用損が昨年度1年間で5兆円を超えたと大々的に報じた。GPIFは国民の年金資産140兆円を預かり、運用している機関。政府の方針でアベノミクス開始以降、国債から株式へのシフトを進めており、結果的に株価の下落の影響を大きく受けた。
 今年3月末の日経平均株価は1万6758円。1年前は1万9206円だったので、ざっと2500円下落した。この影響が5兆円超だったというわけだ。朝日新聞の記事は前日にGPIFが運用委員会を開いて厚生労働省に報告したタイミングを捉えたものだが、5兆円超の損失というのはすでに想定されていた。日経平均株価の水準を比較して、経済研究所などが試算、4月上旬には新聞各紙も報じていた。
 参議院議員選挙の投票を控えたこのタイミングで改めて大々的に報じたのは、選挙の争点として重要と考えたからだろうか。この記事に呼応するかのように、野党各党も年金運用に関する安倍晋三内閣の失敗批判を繰り広げた。アベノミクスの失敗の典型例として取り上げている。実際、足元の日経平均株価は1万6000円を下回っており、現状を捉えればさらに2兆円程度、損失が膨らんでいる可能性が高い。国債から株式にシフトしたことが間違いだった、というのが野党の共通した批判点である。
 これに対して安倍内閣は、年金運用の成績は単年度で見るべきものではないと主張。アベノミクスが始まった2013年度以降3年間のGPIFの累積収益は37.8兆円にのぼるとしている。2015年度はマイナスだとしても、2013年度、2014年度に株高で資産が大きく増えた「貯金」がまだまだある、というわけだ。

カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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執筆者プロフィール
磯山友幸(いそやまともゆき) 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト活動とともに、千葉商科大学教授も務める。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。
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