朝鮮半島「次の一手」(上)「最高尊厳への制裁」で吹き飛んだ「北の対話姿勢」

執筆者:平井久志 2016年7月20日
エリア: 北米 アジア

 第7回党大会、最高人民会議第13期第4回会議を通じた金正恩(キム・ジョンウン)党委員長の権力再編を終えた北朝鮮は7月6日、核問題に関し興味深い声明を発表した。「米国と南朝鮮当局の『北の非核化』なる詭弁は朝鮮半島非核化の前途をさらに険しく困難にするだけである」と題した声明である。声明は「政府スポークスマン声明」で、外務省スポークスマン声明などよりレベルが高い。北朝鮮がそれなりの準備をして出した声明だ。

注目すべき変化

 北朝鮮は、金正恩政権になり、公式声明などで「朝鮮半島の非核化」に言及したことはなく、おそらく初めてとみられる。金正日(キム・ジョンイル)総書記は「朝鮮半島の非核化は金日成(キム・イルソン)主席の遺訓である」としてしばしば言及、核開発を続けながらも、究極の目的は「朝鮮半島の非核化」にあるとしてきた。しかし、金正恩党委員長は第7回党大会での総括報告でも「朝鮮半島の非核化」には言及せず、それを封印してきた。
 韓国では1991年12月18日に盧泰愚(ノ・テウ)大統領が「核不在宣言」をして以来、非核化(在韓米軍を含めての核兵器の不在)が実現している。当時のブッシュ(父)政権は世界的な米軍の再配置の中で在韓米軍の核を撤収した。それを盧泰愚大統領が確認し、それは同年12月31日に、南北による「朝鮮半島非核化共同宣言」となる。現在、韓国に核兵器はないから、北朝鮮が非核化すれば実現するのが「朝鮮半島の非核化」だ。金正恩党委員長は先に第7回党大会で「世界の非核化に努力する」としたが、それは米国が核兵器を放棄すればわれわれも核兵器を放棄するという非現実的な主張であった。しかし「朝鮮半島の非核化」は現実的な課題だ。
 これまで「われわれに非核化など要求するな」と主張してきた金正恩政権が政府スポークスマン声明で「朝鮮半島非核化」に言及したのは注目すべき変化だった。

カテゴリ: 政治 社会 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
平井久志(ひらいひさし) ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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