【特別連載】米大統領選「突撃潜入」現地レポート
【特別連載】米大統領選「突撃潜入」現地レポート (3)

トランプ支持者集会の異様な熱気(下)

執筆者:横田増生 2020年2月3日
カテゴリ: 政治 社会
エリア: 北米
どの集会でも会場は異様な熱気に包まれている(ウィスコンシン州にて1月14日。筆者撮影、以下同)
 

 トレドの集会から1週間と置かず、私はトランプの次の支持者集会の会場であるウィスコンシン州ミルウォーキーへと向かった。

 理由は、トレドの集会では、ちょっと質問を遠慮しすぎたかな、との思いがあったからだ。

 もちろん、トランプ支持者と口論したり、トランプ支持者を民主党支持者に変えようなどという気はさらさらない。

 ただ、もうちょっと掘り下げて訊かないと、トランプ支持者の本音は見えてこないのではないか、という後悔の念が残っていた。

 会場は、ミルウォーキーの中心部にあるウィスコンシン大学が所有するパンサーアリーナ。スポーツイベントやコンサートなどが行われる施設で、収容人数は約1万3000人だ。

 ミルウォーキーに着いた最初の印象は、都会に来たなあ、というもの。

 人口約60万人。全米でも30位前後に入る大都市だ。

 劇場や軒を連ねるレストランやパブを見ながら、田舎町ばかり走ってきた私の目には、アメリカ中西部にもこんな都会があったんだ、と意表を突かれる思いだった。

 私は前回、駐車場代に20ドル取られた経験から、会場の真ん前のホテルに部屋をとった。私の部屋からは、会場が見え、並んでいる人たちも見えるという絶好のロケーション。

1万3000人収容できる「パンサーアリーナ」

 到着したのは集会前夜の午後7時過ぎ。

 すぐに並んでいる人に取材に行く。防寒のために服をたくさん着込み、しっかりマフラーを巻き、ニット帽をかぶって。

 トランプがミルウォーキーを支持者集会の場所に選んだのには理由がある。

 2016年の選挙で、トランプはウィスコンシン州で、1ポイント未満という僅差でヒラリー・クリントンを破って勝利を手にしたが、ミルウォーキーは、クリントンに37ポイントほどの差をつけられて大敗している都市だった。

 2020年の選挙で再選を勝ち取るには、この民主党の地盤であるミルウォーキーを崩す必要があった。

 私が最初に声をかけたのは、ダニエル・ウォレンダー(61)。鉄道貨物会社で働き、今は引退の身だという。

「ミシガン州との州境にあるミノクワから来た。ここから北に250キロのところにある町だよ。寒くないかって? ミノクワに比べると、こんなの夏みたいなもんだよ。今朝は午前10時に出発して、午後2時ごろに着いた。それから順番を待っているんだ」

――どうしてわざわざ集会にやってきたのか。

「集会に参加するのはこれが最初でね。トランプ大統領にお礼の気持ちを示したかったのさ。メキシコとの国境の不法移民の入国を制限することで、安全な生活環境を作ってくれたことに感謝しているんだ。彼の主張は、いつも一貫しているからね。トランプ大統領は約束を守るだろう。そこがいいんだ」

――トランプは、まだメキシコとの間に壁を作るという約束を完全に果たせていませんが。

「(寛容ゼロ)ニュースは嫌だった」というウォレンダーさん

「それは議会との厳しい交渉の末のことだから、まだ壁が完成できていなくても仕方がないよ。予算を成立させるためには議会の承認がいるんだから」

――トランプの強行した「ゼロ・トレランス(寛容ゼロ)」政策で、親子の引き離しが起こりました。

「あれはニュースで見るのも嫌だったね。でも、問題は、この国には非合法で入ってはいけないってことなんだよ。それを知っていてやってきたのは彼らの方だから、責められるのは大統領だけじゃない、と思っている」

――ウィスコンシン州は、メキシコの国境からも遠いので、移民もやってこないのでは?

「たくさん来るよ。ここは農業州だから、夏になるとメキシコからの移民が農場の仕事の手伝いにやってくるんだ。俺が働いていた貨物鉄道会社にも、メキシコからの移民がたくさん来たよ。賃金は一番安いけれど、一番きつい仕事を割り当てられていたね。移民自体に問題はないよ。合法でやってきた移民ならね。メキシコからの移民の友達もたくさんいた。でも、イスラム過激派のIS(イスラーム国)のような人々は、この国に入ってくるべきじゃない」

 なるほど、おもしろい。こちらの反論をぶつけても、ちゃんと答えが返ってくる。

 そう思って、次の50代の女性に声をかけたが、これはひどかった。金髪の長い髪が目立つ、長身の女性。

 彼女は、トランプが大統領になるのは、旧約聖書の預言に書いてあって、それが現実に起こっているのだ、という神懸かりな話を延々とつづける。私が聞いたこともない書籍の名前を次々と挙げ、トランプが2017年、エルサレムをイスラエルの首都に承認したのは、旧約聖書の預言通りなのだ、と。

 私は早々に取材を切り上げたいのだが、こういう人に限って話が長い。1時間以上つづいた彼女の話は、私にはほとんど理解できなかった。

 翌日の集会でも、彼女は「トランプ信者」が集う演説台の前の立見席の最前列で、長い髪を揺らし、トランス状態のようにトランプの言葉に聞き入っていた。

 その女性との取材で、私は活力をあらかた吸い取られたので、その日の取材は打ち切った。

外交政策と中絶反対

 集会当日朝の取材で出会ったのは、テレコミュニケーション業界で働くクリス・ケセラー(34)。ミシガン州マディソンハイツから来た。

 トランプの支援者集会に来るのはこれで3回目だという。

――トランプ政権をどう評価するのか。

「トランプになってから経済が力強く成長しはじめた。オバマ政権では、高すぎる税金と、多くの規制、オバマケア、そのすべてが社会主義的な政策だった」

 社会主義というのは、トランプ陣営や共和党支持者が、民主党の政策を貶めるときに使う言葉だ。

 社会主義体制では、人々の能力や努力は評価されず、みんな均等に富が分配されるので、競争原理が働かず、社会全体が停滞してしまう、というマイナスの意味合いが込められる。

 前回のトレドの集会でも、「Socialism Sucks!(社会主義はひどい!)」という垂れ幕を持つ人々がいた。しかし、本当にそうであろうか。

――高い税率と経済成長は両立しうるのでは? たとえば、北欧3カ国とか。

「そうだね。スウェーデンなどは両立しているいい例だね。でも、僕は小さな政府を支持するリバタリアン(自由至上主義者)の立場だから、アメリカがスウェーデンのようになるのには同意できない。自分たちの決定権は、自分たちの手にあったほうがいいと考えるからだ。政府の意向が大きくなるということは、それだけ国民の権利が小さくなるということを意味する。僕は、国民の権利が最大になり、政府の介入は最小限に抑えるべきだと思っているんだ」

――どんな政策が重要か。

ケセラーさんは「中絶反対は大事なこと」

「外交政策と中絶反対(pro-life)、クリスチャンだから。中絶反対は、大切な政策だね。今、アメリカでは年間約60万人の子どもが中絶されているけれど、中絶されずに生まれてきていたら、何人ものスティーブ・ジョブズやウォルト・ディズニーが、その中から育ったかわからないじゃないか。そして、アメリカの経済を引っ張って行ってくれたかもしれない」

 また中絶問題が大統領選挙に顔を出してきた。

――中絶容認派(pro-choice)は、女性には自分の人生を選ぶ権利があるというが。

「聖書はそう言っていない。科学も胎児は人間だ、と言っている。受精したときから、生命ははじまり、それを中絶することは、殺人と同じ行為なんだ」

――1970年代の最高裁判決「ロー対ウェイド事件」では、人工中絶は合憲となった。

「あれは時代遅れの判決で、見直されるべきだと思っているよ。もともとは、強姦された女性や近親相姦に遭った女性に適応されるはずだったのが、今や、避妊に失敗したときの応急手段に成り下がっている。車を運転するときには、免許をとったり、保険に入ったりする責任があるだろう。それと同じように、性行為にもそれ相当の責任が伴うんだよ」

――避妊具を使うことや、もし子どもができたときは結婚して子どもを育てるのが責任だ、ということか。

「そういうことになるね」

――民主党にいい候補者は1人もいないのか。

「うーん、ジョン・F・ケネディまでさかのぼらないといないね。もちろん、僕は生まれていなかったけれどね」

トランプ政権の成績は「Bプラス」

 もう1人話を聞いたのは、ポール・バシスタ(63)だ。トラックの運転手だという。

 イリノイ州ワンダーレイクから1時間強かけて、この会場に着いたのは午前6時。10ドルで借りられる折り畳み式のイスで場所を確保して、私の投宿するホテルの喫茶店で休んでいるところに声をかけた。

――あなたは共和党員か。

「共和党員ではなく、共和党寄りの無党派だね。2008年にはオバマに投票したけれど、オバマの言う『Change』が4年間で起こらなかったので、2012年には共和党のロムニー(ミット・ロムニー上院議員)に投票した。トランプには2016年に投票して、今年も投票するつもり。なんせ、株式市場が上昇をつづけ、そのおかげで分断されていたアメリカも1つにまとまりつつあるように見えるだろう」

――トランプが大統領になったことで、アメリカの分断が深まったという人の方が多いと思うが。

「それはトランプが率直に、ズバズバといろんなことを言うから、一時的にいらいらしている人たちもいるのは知っている。でも、黒人やヒスパニック系のアメリカ人の失業率も、史上最低を記録しているだろう。そういう意味では、すべてのアメリカ人が、トランプ政権の政策を喜んでいいと思うけれどね。俺は、あと2年、65歳になったら引退しようと思っているので、それまで『401K』(株式などを使ったアメリカ版確定拠出年金)の額がどれだけ上がるのかを楽しみにしているんだ。今の俺の401Kの金額? それは言えないな」

「人を貶めるようなことを口にする」から評価が厳しめのバシスタさん

――トランプ政権に成績をつけるとしたら?

「Bプラスかな」

――結構厳しい評価だ。どうして?

「トランプはしばしば、人を貶めるようなことを口にするだろう。たとえば『CNN』の記者を、国民の敵(the enemy of the people)と呼んだりさ。うちはカミさんが民主党支持者だから、トランプがそんなことを言うたびに、夫婦げんかが起こるんだよ。だから、トランプにはもっと口を慎んでほしいんだよ」

 彼が言うのは、2018年11月7日のホワイトハウスでの記者会見での出来事だ。

 テレビカメラが生中継する最中、『CNN』の記者ジム・アコスタが、トランプに移民政策やロシア疑惑などについて尋ねると、トランプが途中でマイクを取り上げるよう指示し、それでも質問しようとするアコスタに「お前は国民の敵だ」と言い放ち、大きな波紋を呼んだ。

 トランプは、それ以前の2017年2月17日 のツイッターでも、『CNN』も含め、トランプ政権に対して厳しい論調を取る『ニューヨーク・タイムズ』やテレビ局の『NBC』や『ABC』『CBS』を国民の敵と呼んでいる。

 これに対し、2008年にはオバマと大統領選挙を戦った共和党の重鎮であった故ジョン・マケイン上院議員は、『NBC』のニュース番組でトランプのツイートに対するコメントを求められ、こう答えている 。

「私もマスコミは大嫌いだ。しかし、民主主義を維持していくためには言論の自由が必要だ。たとえ、その多くが政治家にとって敵対する論調をとるものであったとしても。言論の自由がなくなると、人々の自由まで奪われる。そうやって独裁政権がはじまっていくんだ。〈中略〉歴史を見ればわかるように、独裁者が最初にやることは自由な報道を断ち切ることだったじゃないか」

 そうである。

 トランプは、民主主義には言論の自由が必要だ、という基本がわかっていないようだ。

 10人近くに話を聞いているうちに、支持者集会の列はどんどん長くなっていった。

 私はあわてて取材を打ち切り、列に並ぶ。正午ごろのことだった。開場まであと3時間。

 近くで30代後半の男性が、自分がトランプ支持者であることを周囲にとうとうと語っていた。それを見つけた地元のテレビ局が、彼にカメラを向けた。

「オレは、できればトランプ大統領を抱きしめて、ありがとうって言いたいんだよ。本当に、抱きしめたいんだよ」

 なぜなんですか、とレポーターが尋ねると、

「トランプを愛しているからだ!」と絶叫した。

 その映像を撮ってレポーターとカメラクルーは去って行く。

反対派排除の完全な布陣

 3時間後にようやく、アリーナに入る。今回は、演説台の右側の席に座った。これからトランプ登場まで4時間待つ。

 その間、目についたのは、タトゥーの入った筋骨隆々のセキュリティーの存在である。ボディービルダーを思わせるような筋肉の塊だ。

 ざっと数えただけでも10人はいる。

 そういえば、トレドの集会でも目にしたな。

あっという間に「排除」されるサンダース支持者

 今度はしっかり写真に撮ってみる。灰色のポロシャツには、「ウィスコンシン・セキュリティー」と書いてある。携帯で検索するが何も出てこない。

 トランプが現れたのは、定刻の午後7時ちょうど。

 マイケル・ジャクソンの1980年代のヒット曲『Beat It』が大音量でかかる中で登場した。

 その日のネクタイの色は、トランプのもう1つのイメージカラーであるブルーだった。

 この日の演説で、特筆すべき箇所を1点挙げるとすると、トランプがイランの軍事指導者ソレイマニを「son of a bitch」と呼んだことであろう。

 分別ある大人なら決して口にしない「bitch(売女)」という言葉を大統領が演説で使い、聴衆はその言葉に大きな歓声を送った。

 果たして、トランプ以前に、演説で「bitch」という言葉を使った大統領はいたのだろうか。

 しかし、支持者にとっては、トランプが敵を口汚く罵るのはもはや当たり前のことで、むしろそのことで溜飲を下げている節さえある。

 私は今回、反対派の動きに注目して、集会を追った。

 よく見ると、トランプの演説台の周りにはネクタイを締めた10人ほどの目つきの鋭いセキュリティーらしき男性が取り囲み、聴衆席をにらみつけている。

 大統領警護のシークレット・サービスの一団とは明らかに雰囲気が違う。

 それぞれに受け持ちの範囲があるのだろう。一定方向から視線を動かさない。10人ほどで、全方位を網羅しているのだ。

 最初の反対派の動きは、トランプの演説開始から15分ごろに起こった。

「No War」と書いたプラカードを持った数人が、演説台の後方の上段で立ち上がった。全員がすぐに場外に送り出されたのだが、私の位置からはどうやって連れ出されたのかは見えなかった。

 その2分後、私の4列後ろの男性が立ち上がり、無言で中指を立てた。アメリカでは相手に対する最大限の侮蔑のサインである。すると、ボディービルダーのセキュリティー2人が速攻で現れ、両側から男を挟み込んで連れ出した。

 それから約10分後、今度は中央の立見席の中から、「バーニー・サンダース」のプラカードを男性が高く掲げた、すると、またもタトゥーのセキュリティーが2人がかりで男を挟み込み、会場外へと連れ出した。

 その直前には背広姿の男たちの指示があり、その指示を受けてセキュリティーが反対派を排除にあたる、ということのようだ。

 反対派の声は一切許さない。

 反対派の声には一切耳を傾けない。

子どもにプラカードを掲げさせる親も多い

 そのための完全な布陣ができあっているのだ。その意味では、演説というより、トランプ独演会である。

 反対派をつまみ出した後には、トランプの決め台詞がある。

「トランプの支持者集会よりおもしろい場所が、ほかにあるかい?」

 私が、たとえばここで「ジョー・バイデン」と書いたプラカードを掲げたら、どのような扱いを受けるのだろう。

 そう考えるとわくわくしてくるのだが、大統領選挙は11月までつづく。

 最後まで無事に乗り切るには、無茶をしないこと、と自分に言い聞かせて、黙ってトランプの演説を聞き終えた。今度は、反対派の人たちの話を聞きたいな、と思いながら。

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執筆者プロフィール
横田増生 ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て米アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号を取得。1993年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務め、1999年よりフリーランスに。2017年、『週刊文春』に連載された「ユニクロ潜入一年」で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞(後に単行本化)。著書に『アメリカ「対日感情」紀行』(情報センター出版局)、『ユニクロ帝国の光と影』(文藝春秋)、『仁義なき宅配: ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』(小学館)、『ユニクロ潜入一年』(文藝春秋)、『潜入ルポ amazon帝国』(小学館)など多数。
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